Baby,sing a song.
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一週間後
私は蔵馬さまと桑原さんに連れられて、電車のなかにおりました。
今日から私の、人間界での、人間としての暮らしが始まります。
私の我が儘で、高校にも通うことが許されました。
「大丈夫なんですか?」
私の方を向かずに、蔵馬さまが仰いました。
何が?とも思いましたが、私のこれからの生活のことを案じて下さっているのでしょう。
『はい。
魔界にいた頃から人間界のことは興味がありましたから。
高校くらいまでのお勉強でしたら、魔界で、たまにしておりましたし、黄泉さまから、人間界のことも人間のことも、たくさんお話しして頂きました』
「変わってますね」
蔵馬さまが呟きました。「変わってる」の主語は恐らく「私が」でしょう。
「魔界で人間の勉強なんて出来るんすか?」
桑原さんが私の方を見て聞きました。
桑原さんには私の荷物も持って頂いています。
なんか、申し訳ないです。
『えぇ、人魚には、人間界での伴侶と死に別れて魔界に帰ってきた人もいるから。
昔、人間界の学校で教師をしていた人もいたのよ』
「へー。
そんなヤツもいるんですか。
でも、そこまでして勉強するなんて、紗々さんて、勤勉なんですね」
『さすがに300年も唄って生きているだけだと、暇なの』
「さ、300年っ!?!」
桑原さんは、大きな声を出して、私の荷物の紙袋を落としました。
「あ、す、スミマセンっ」
『大丈夫だよ。
服しか入っていないから』
私は紙袋からはみ出したワンピースの袖を入れ直しながら、桑原さんを見上げました。
「それにしても、荷物、少なくないっすか?
こんな紙袋一つに収まっちまうなんて」
『生活に必要なものは、全て、あちらに送って頂いたから』
「マンションと家具は、温子さんと静流さんの見立てなんですよね」
『はいっ
私は脚を保つための練習で、寺の外に出られなかったので。
皆さん、本当に優しくして頂いて、何と感謝申し上げたら良いのか』
「良いんすよ。
あいつら、ヒマなんですから」
桑原さんはそう言って、歯を見せて笑いませた。
この人の笑顔は、なんだか私を安心させてくださいます。
「ところで‥‥」
蔵馬さんが、やはり私の方を向かないで仰いました。
「なんで、桑原くんはため口で、俺は敬語なんです?」
『あ、えっと‥』
私はなんとなく跋が悪くなって、口籠もってしまいました。
「オレオレ、俺が頼んだんだよっ」
桑原さんが助け船を出してくださいました。
「俺、敬語で話されるのニガテだしよっ春から高校に編入って言うもんだからっ」
「ふぅん‥」
会話終了。
あああああの私、なにかしちゃいました?
先程から、蔵馬さまのいらっしゃる左側半身が、とても冷たいです…。