Baby,sing a song.
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冬の水曜日の夕方だった。
明日は祝日なので学校は休み。次の日は終業式のみで、これまた授業はなし。
そこから冬休みが始まる。
(この、冬休み前の祝日って、どうも肩透しされてる気分なんだよなあ)
毎年のことながら、感じずにはいられない気分を味わいつつ、蔵馬は長い石段を登っていた。
幻海から折り入って頼みがあると、ぼたんから伝えられたのが今日の昼休み。
屋上でのことだった。
暇な時で構わないと付け加えられたが、幻海には6人の修行を付けて貰った借りがある。
何より、蔵馬自身、厄介事を冬休み、延いては来年にまで持ち越したくはなかった。
それゆえ、学生服のまま寺に向かう事にしたのである。
石段を登りきると、こちらに背を向けて掃き掃除をしている少女を見つけた。
蒼い髪を朱い髪留めでまとめた後ろ姿は、雪菜である。
「今日は、蔵馬さん」
蔵馬の微かな妖気を感じて振り返った雪菜は、箒を抱えてにっこりと言った。
「今日は、雪菜ちゃん。
幻海師範は中ですか?」
「はい、奥の間へどうぞ。 桑原さんとコエンマさんもいらっしゃってますよ」
「そぅ、有難う」
口元だけで笑顔を作った蔵馬は、昼間のぼたんが皿屋敷中の制服を着ていたのを思い出す。
(コエンマも一緒か。
これは、本当に厄介事かもな)
雪菜に気付かれないようにに吐いたため息は、マフラーに吸い込まれていった。