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□3.不思議な彼女
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【不思議な彼女】
朝目が覚めると、昨日よりも僅かだが体が軽くなっていた。綱手様にまだチャクラが三分の一しか戻っていないと言われたが、一応回復の兆しはあるようだ。
「さ〜て、リハビリに行きますか」
リハビリと言う名の散歩に出掛けようとした時、昨日出会った子の事を思いだした。もしかしたら今日もバッタリ会うかもしれないなと思ったオレは、例の巾着袋をポケットにしまい病室を出る。
すれ違う看護師に当たり障りのない朝の挨拶をしながらポケットに手を突っ込み歩いていると、昨日と同じ突き当たりが見えた。それと同時に、なにやら廊下にしゃがみ込んでキョロキョロしているピンク色のパジャマを着た女の子を見付けた。
あ、あの子だ。
バッタリ会うかもしれないとの予想は見事的中し、何かを探している様子の彼女へと近付いた。
「探し物はコレ?」
彼女の前にしゃがんで巾着袋を差し出すと、「えっ!?」と彼女は驚いた顔でオレを見る。
「コレさ、君のデショ?」
「え…なんでこれを?」
「昨日ここで拾ったんだヨ、君とぶつかった後に」
「あ…あぁ!そうだったんですか」
途端に彼女の表情がパァッと明るくなった。
「ありがとうございます♪ずっと探してたんですよ、これ」
「良かったネ、見つかって」
「はいっ♪」
巾着袋を手にとり、嬉しそうに笑う彼女を見てなんだか少し自分が良い事をしたような気分になった。
「あのさ」
「はい?」
「それ大事な物なの?」
「えぇ、幸運のお守りなんですよ、これ」
は?あの石っころが?と口を滑らせてしまいそうになったが、オレが中を勝手に見てしまった事がバレてしまうので慌てて口をつぐんだ。けれど、そんな事を知らない彼女はニコニコしながら「見ます?」と巾着袋を開けて石を取り出し、オレに見せる。
「どうですか?すごいでしょう!!」
「…え、えー…と、どの辺が?」
ただの石を誇らしげに見せるも、オレは何がどうスゴイのかわからず首を傾げた。
「形ですよ、形!」
「形?」
「そうです、この石、ハートの形してるんですよ♪」
「………」
「ね!?すごいでしょう!」
「…ん、んー…そだネ…」
オレにはどう見てもくの字に曲がったなんて事ない石にしか見えないのだけれど、彼女にはそれがハート型に見えるらしい。
「この石、病院の庭で見付けたんですけど、このハートの形がなんだか幸運を呼んでくれそうな気がして思わず拾っちゃったんですよ」
そう言って、彼女は石を眺めた。彼女いわく、その石は幸運の石なのだそうだ。
オレは幸運だのなんだのに興味なんてないし、信じてもいない。けれど、「そう思いませんか?」と彼女が優しい微笑みを浮かべれば、何故だかただの石っころが『幸運の石』に思えてくるのだから不思議だ。
「あ、そろそろ検診の時間だから戻らなきゃ」
彼女は石を巾着袋に戻し、パジャマのポケットへとしまう。
「アタシのお守り、拾ってくれてありがとうございました」
「いーえ、どういたしまして」
「じゃあアタシ行きますね」
ペコリと頭を下げると、オレに背を向け歩き出した。だが彼女は何か思い出したように「あ、そうだ」と呟き振り返る。そして彼女は言った。
「この石を拾ってくれた銀髪さんにも、きっと幸運が訪れますよ」
ニコリと笑った彼女の笑顔が、なんだか太陽のように明るく見えた。
ってゆーか銀髪さんって。
ホント不思議な子だなぁと思いながらオレは笑って返事を返した。
続く
210506