差し伸べられた先の―――(ピオルク)



子供は泣かない。
子供の仲間達は、皆口々にそう言った。

そして、それは本当の事なのだろうと、彼を目の前にしてそう思う。



彼らがグランコクマに報告に来た時には、必ず子供を己の私室に呼んだ。

彼が己を苦手に思っていることは知っていたが、それ以上に彼を構いたいという欲求があったからだ。抑えきれないその欲求に苦笑し、それを悟らせない様に私室に招く。
招かれた子供は戸惑いながら私室に向かい、何でもない事を話してまた別れる。

それを何回か繰り返していると、己の懐刀がやけに神妙な顔で話してきた。

曰く―――彼を助けて下さい、と。



「何だ、そりゃ」

思いもしないその言葉に、若干声が掠れた。

「彼は、泣かないのですよ。悲しくても辛くても…怖くても」

ジェイドは疲れた声だった。きっと彼なりに子供に諭したのだろう。けれど、子供は頷かなかった。

「どんなに言っても、大丈夫だと。そうとしか言わない。彼は、私達に弱音を吐いてはくれない…。にも関わらず、彼は私達を許容し赦すのです。なんて不公平なのでしょうね。私達が赦されるなら、彼だって赦されるべきでしょうに」

自嘲しながら、ジェイドは目を覆った。

「彼は、今ギリギリの所にいます。これ以上何かあれば、壊れかねない。ですから――」
「お前達が救いたいとは思わないのか」

ジェイドの言葉を遮り、問う。けれどそれは、余りにも意地の悪い質問だった。ジェイドは苦笑して問いに答える。

「…私達には救えませんから」

彼を追い込んでしまった自分達には……。

※※※※


あの時にそう答えたジェイドは、余りにも弱々しく見えた。
これが戦場以外でも畏れられている「死霊使い」の姿だろうか、と思ったのは記憶に新しい。


その後、ジェイドの計らいにより彼ら一行は宮殿に泊まることになった。

ルーク以外はジェイドに話を聞いていたらしく、一様にすがるような眼差しだ。

それらに少し居心地が悪くなり、残っていた執務の話を出しその場を去る。ジェイドがこれ見よがしに溜息を吐いたが、無視をした。


ふと気付くと、外は暗かった。思いの外集中していたようで、傍にあったカップの中身は冷えてしまった。それをグイッと飲み干し、立ち上がる。本来の目的を忘れてはいけない。

彼らに割り当てられた客室に向かう。途中、通り掛かったメイドに夜食を頼み、歩を進めた。


目当ての部屋に辿り着き、ノックをする。だが、諾の声がない。

ガチャ―――

「―――ルーク?」

不振に思い、扉を開けてみるが部屋には誰もいなかった。

「どこ行ったんだ?」

頭を掻きながら、その部屋を後にした。




空にある月を眺めながら、歩いている兵士やメイドにルークを見なかったか訊ねる。

すると、宮殿の庭にあるベンチに俯いている朱が座っているのが見えた。

漸く見付けられた事に安堵しながら、その姿に近付き。

立ち止まった。

子供は何をするでもなく、手を組み指を額に当て目を瞑っていただけだ。けれどそれは、さながら月に祈っているようで。

(いや、祈ってるんだろうな。殺してしまった者達への冥福を)

彼らは旅をしている。危ない事も多々あっただろう。もしかしたら、今日も人を殺してしまったのかもしれない。

ルークはレプリカだ。外見と実年齢は違う。そして彼は、産まれてから殆んどの時間を狭い邸で過ごした。そんな場所では、精神的に成長するわけがない。

たった7歳の子供に死を強制し、また人を殺す事を強制する。

7歳といえば、未だ親の庇護下にあるというのに…。



暗くなる心境に鞭を打ち、ベンチに近付く。サクリという音に気付いたのか、彼が顔を上げた。

彼は元々大きい瞳を更に大きくして、「陛下…?」と呟いた。

「あぁ。何してるんだ?ここで」

何でもない様な口調で、ルークに訊ねる。ベンチを詰めてもらい、空いたそこへ座った。

「いえ…別に、何でもないですよ」

ルークは苦笑いしながら手を左右に振った。だが、その苦笑いが何故か泣きそうに見えてしまい。気付いた時には、既に彼を抱き締めていた。

「へ、いか?」

困惑気味なその声を聞きながら、安心させるように背中を擦る。

「ルーク…。泣いてもいいんだぞ?」

その言葉にビクリと反応し、弱々しく己の胸を押し返す。けれど弱いその力ではビクともせず、ルークはクシャリと顔を歪ませた。

「お、れは…泣く資格なんて無いんです…」

呟く様に言われたそれに、己の眉に皺が寄ったのを感じた。

「…泣くことに資格は必要ない。泣くという行為は、自分の感情を外に表現する事で…死を悼む事でもある。哀しければ泣けばいい。押さえ付けなくていいんだぞ」

優しく優しく、抱き締めながらそう諭す。

「…………」

ルークの身体の強張りが解けていくのが分かり、嬉しく思った。

「俺は何も否定しない。お前の全てを肯定しよう」

囁く様にそう言うと、ルークの手が胸の衣をギュッと掴み、一瞬の後―――

「くっ…ぅぅうああああーーーっ!」

漸く泣く事を己に許可した子供の頭を撫で、薄く微笑んだ。




end


後書き


とりあえず終了です。…支離滅裂な感じですので、感覚で読んで頂ければ幸いです。

これはサイト開設1ヶ月記念フリー小説となってますので、どうぞご自由に持っていって下さい!
フリー期間は、無期限です。

…持っていく人がいるのか解りませんが…(汗)


では、これからも『二度目の嘆き』を宜しくお願いします!


2009.3.27 雪夜

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