短編集
□信ずるに価する心
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皆、出て行った。
俺の言葉に皆が苛立って、顔も見たくないとその顔を歪ませて。
「ヴァン師匠……」
大好きで大好きで仕方なかった。
あの人だけが、俺を理解して認めて叱って肯定してくれた。
唯一人、俺が存在していたのを知っていてくれた人。
ずるずると甲板の壁に寄り掛かって俯く。
横にはいないと思っていた青い塊。
「なんだ、ミュウ。アイツラと一緒に行かなかったのか」
少し掠れたその声は、あの超振動が放たれる時に必死に叫んだからで、「俺じゃない」とさっきも叫んだから。少し痛めたのかもしれない。
「みゅう…ご主人さま…大丈夫ですの…?」
心配そうに見るその瞳は、アイツラが見せていた侮蔑や軽蔑、自分にとっては見慣れた、存在否定の色はない。
「あぁ、大丈夫だ」
そう、ただ、あの頃に戻るだけ。
ヴァン師匠が俺を見てくれないなら、誰も俺を見ない。
俺じゃない誰かを皆は求めるから。
なぁ、ヴァン師匠。
俺は、俺自身を見てくれた貴方が大好きだった。
たとえ、それが…俺を利用するためにした事であっても。
「なぁ、ミュウ」
「みゅ?」
「俺は、『誰』なんだろう、な」
ミュウは大きな頭を傾げさせて言う。
「ご主人さまはご主人さまですの」
「…っ!」
あぁ、存在を肯定してくれるモノがいるなんて…。
なんて俺は幸せなのだろうか…!
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