短編集
□beautiful day
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決戦が終わって、3年が経ち、被験者であるアッシュが世界に還ってきた。
初めはガイラルディアやアイツの仲間達に殺気そのもので見られていた彼だが、何時の間にかそんな気配はなくなっていた。
これも、時が解決してくれたんだろう。
けれど、彼を失ったこの心は未だ癒えぬままだ。
あの時に、瘴気中和の時に彼に言った言葉を後悔はしていない。
必要な事だったし、やり直しが出来たとしても結局自分は「死んでくれ」と言って、けれども「逃げても追わない」と言うのだろう。
…彼がそんな事出来る訳がないのに。
彼はいつだって自分の存在理由を探していたし、自分に出来る事なら何だってやろうとした。
だからこそ、自分に出来ることを他の者に任せる筈が無いのだ。例え…それが死と同意義であっても。
朱色の子供。
まだ、7年しか生きていなかった…幼い子供。
彼は、身の丈に合わぬ業を押し付けられ、必死に生きて生きて生きて、世界に殺され国に殺され人に殺され…オリジナルに存在を食われて死んだ。
あぁ、彼が救った世界は、こんなにも美しく…そして醜い。
こんな事を、皇帝である自分が思ってはいけないのに。
皇帝とは、民と国の為に存在するものだ。
たった一人の為に、心を割いてはいけない。
けれど、そう思っても朱を見るたびに翡翠を見るたびに心は高鳴り、そして落胆する。
ネフリー以来の感情を持ったのは男で。
いや、それはどうでもいいか(後継問題があるからどうでもよくはないが今はおいておく)。
それ以上に問題なのは、子供が居なくなった直後にその気持ちに気付いたことだ。
ジェイド達が戻ってきて、子供が居ない事に気付きジェイドだけを私室に招き問うた。
「ルークはどうした」と。
そして、ローレライ解放と大爆発、乖離について知った。
子供が還らない。
それは、己の背に冷たい汗が伝い、そしてジェイドには解らない程度にだが全身を恐怖に震わせられる程の衝撃だった。
皇帝になるべくして教育させられてきた。
何を言われても、表情に出ないように躾けられた。
その事が無ければ、確実に見っとも無く蹲っていただろう。
そして気付く。
己が、朱色の子供を愛していたことを。
彼はいつだって、儚い笑みだった。
大声で笑うのだって、あまり見たことが無い。
いつか聞いた、傲慢で馬鹿な、『愚かなレプリカ・ルーク』
けれど自分には、どんな状態であっても彼は彼だと感じた。
彼の、優しすぎる心に惹かれた。
彼の、素直な瞳に魅了された。
彼の、強い眼差しが好きだと感じた。
性格なんて、直ぐに変わるわけが無い。
本質が優しくなければ、慈しみの目なんて出来ない。
彼は元々優しかった。
導師イオンだって、言っていたそうだ。
『ルークは優しい』と。
そして、世界は優しすぎる彼を犠牲に、今も生き続けているのだ。
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