短編集

□憎しみの末の
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あの、悪夢の日。

一人だけ、この世界に残されて

信じられるのは、一人の騎士だけ。

俺の五歳の誕生日。

幸せな日になるはずだったのに、

気付いたら世界は血の海。

大好きで大切な姉は目の前で殺されて、

残ったのは、悔しさと憎しみに堕ちた心。

ずっとずっと、機会を待っていた。

あの男の大切なモノを殺す、その時を。

ずっとずっと、愉しみにしていた。

あの男の顔が絶望に染まる、その時を。



でも、ダメだった。

いつだって、殺したかったハズなのに。

彼女を見る度、胸が高鳴る。

抱き締めたくなる。

その度に殺意が消える。

冷たくなった心が、温かくなる。



あぁ、愛してる愛してる愛してる!!!


そう言って抱き締めてすがり付きたくて。



でも、彼女はいない。
命を賭して、世界を救ったから。


世界はなんて酷いんだろう。

俺から家族や故郷を奪っただけじゃなく、

唯一人の愛しい人すら奪うなんて。


あぁ…彼女の命を食らった世界が憎い。

何も知らずに生きる人々が憎い。

そして、何より…のうのうと生きている自分が憎い…!

出来るなら、早く彼女の側にいきたいけれど。

彼女を犠牲にして生き長らえたこの世界を、見守らなければならない。

だから、世界を憎んで人々の滅びを望んで早く己の死が訪れる事を願って、日々を生きよう。

お前がいない世界は白と黒しかない。

だから、早くお前の鮮やかな朱と澄んだ翡翠を見せてくれないか。

その色を忘れる前に。

『だらしねーな!ガイ!』


訪れたのは地獄?天国?
(けれど、どちらであっても彼にとっては幸福でしか無く)


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