短編集
□其は許しではなく、
1ページ/5ページ
それを知ったのは、朱色の子供が消えて数ヶ月が経ってからだった。
「陛下、なんと言いましたか」
グランコクマにある宮殿のなか、ピオニーとの謁見中に言われた言葉。
それは―――
「だからな、アクゼリュスは自然崩落だったと言っているんだ」
溜息混じりに言われた言葉は、彼等にとって衝撃的だった。
「なんで――だってアクゼリュスはっ!」
始めに叫んだのはアニス。そして、口々に話し出す。
「そうです!アクゼリュスを崩落させたのはルークです!」
「ヴァンに騙されて、超振動を使ったと認識していたのですが」
だが、各々の言葉を聞いていたピオニーは深々と溜息を吐いた。
右の掌を額にあて、そうだと頷いた。
「お前達がそう言っていたから、事実確認をして改めてキムラスカに問おうと思ってな。アクゼリュスを調べたんだ」
その事を初めて知った面々は、目を見開いた。
「陛下、いつの間に」
「お前達がセントビナーの救出をしている時にだ」
横に仕えているアスランを呼び、用意していた資料をジェイドに渡す。
「これは?」
「アクゼリュスのパッセージリングを調べた報告書だ。…読んでみろ」
ペラリ、ペラリと紙が捲られる音が静寂なその場所に響く。
文字を追っていたジェイドの目が、ある場所にたどり着くと驚愕に見開かれた。
「…これ、は…」
「気付いたか」
ピオニーはあおざめて行くジェイドの顔を眺め、それで、と口を開く。
「何か言う事はあるか」
「………申し訳ありません」
「その言葉は俺にじゃねぇよな」
「はい……」
二人のやり取りに、痺れを切らしたのかアニスが割って入る。
「大佐ぁ!どうしたんですかぁ?」
「そうですわ、どうしたんですの?」
ジェイドは二人を見遣り、溜息を吐いた。
「我々は、…何の罪もない幼子の心を壊してしまったのですよ。なんて、罪深いんでしょう…」
「幼子ってぇ…あの逃げ出したレプリカの事ですかぁ?」
蔑みの色を混ぜた瞳で、アニスは聞いた。ティアやナタリアは何も言わない所を見ると同じ意見の様だ。唯一人、ガイだけは辛そうな顔で俯いていた。
「…此方の資料には、先程陛下が言った通りアクゼリュスの捜査報告が書かれています」
言ってジェイドはヒラリと掲げた。
「結果は、皆さん知っての通り崩落です。ですが、此方には原因であろう要因が書かれていました」
「それは…ルークの超振動ですわよね?」
「いえ…ルークは確かに超振動を起こしましたが、この報告書にはパッセージリングが外部からの衝撃で崩落していない、とあります」
「なら…ルークは、」
俯いていた顔をあげ、ガイは顔を青くする。
「えぇ。彼は本当に何もしていないんです」
「け、けど大佐!なら、ルークは超振動をどうしたんですか!?」
少しでも掠り、それが重要な場所だったら。
そう言いたいのだろう。
けれど―――
「有り得ないんですが…ルークは、起こそうとした超振動を抑え…己に放った様です」
彼は、あのアクゼリュス崩落が起きた後に自分たちとあの会話後、一度だけ「俺はやっていない!」と叫び黙り込んだ。
あの言葉が本当だとは、誰も思わなかったのだ。
そして、彼は我々が外郭大地に戻っている間に消えた。
.