短編集
□勝手にやってろ
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気付くと見慣れない場所に倒れていた。
起き上がって辺りを見回すと、周りにはセレニアの花。
目の前には海。
(初めて見た…)
知識としては知っていたが、実際に見るのは初めてだった。
広大なそれを、数瞬眺める。
風が吹いて、ルークの朱髪を靡かせた。
(そういえば…)
ふと、根本的な事柄を思い出す。
己がここにいる理由。
再び視線を巡らせると、少し離れた場所に人が寝ていた。
近寄って見てみると、確かにヴァンを襲った襲撃犯だ。
(こんな状況でよく起きねぇな…)
オラクル騎士団の服を着ているからには、少女もまた軍人なのだろう。
だが、仮にも軍人が人様の邸で上司を殺そうとし、尚且つその邸の子息を誘拐するなんて…。
(どんな常識知らずだよ)
ダアトの教育も高がしれている。
少女は起きる気配がまだない。ならば。
(せっかく外に出たんだ。誰があの窮屈な場所にばか正直に帰るかよ)
内心で呟いて、少女に背を向ける。
襲撃犯なんぞ、知らない。勝手に野垂れ死んでいればいい。
(あぁ、生を受けて7年。漸く俺は自由になる。預言だとかローレライだとか知ったことじゃない。そもそも俺はレプリカであり、『ルーク』じゃない。預言に書かれていない存在が身代わりになるものか。なのに、その俺にキムラスカを繁栄させたいが為にアクゼリュスを崩壊させるだなんて。預言はそこまで許容するのか。被験者はどこまで傲慢なのか)
つらつらと考えている間も足は動かしていた。森に入れば時折魔物が襲ってきた。今は木刀しかないから少々手こずる。
(せめて、あの女の短刀を貰ってくるんだった)
今更な事を思いつつ、足を進める。
聞こえてきた水音に川を見つけた。それに沿って歩いていく。
途中、人影が見えた。近くに馬車があるのを見ると、御者の様だ。
(タタル渓谷はマルクト帝国の領地だ。普通の村なら平気かも知れないが、御者だとキムラスカ王族の特徴を知っているかも知れない。朱髪と翡翠の眼は危険だな…)
そう考えて、御者に会わずに歩いていく。
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