短編集

□beautiful world
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あの決戦から3年が経ち。けれど帰ってくると約束したあの朱色の子供は、未だ帰って来ない。


…それは、己の無駄にまわる頭があらゆる可能性を考慮し、弾き出してしまった結論であり、被験者であるアッシュが、彼の子供と大爆発を起こし記憶と身体を持って還ってきた事により、ゆるぎない事実でもある。

子供の専属使用人だと言っていた彼は、還ってきたアッシュを憎悪の目で見ていた。

きっと自分もそれ程変わらないだろう。

いや、年を重ねている分、ポーカーフェイスは出来ている筈だ。
それは親しい、例えばピオニーやサフィール、ネフリー等のある程度己を理解し時を重ねた者にしか解らない表情であったとしても。

(…いえ、あの子なら解るかも知れませんね)

子供は、アクゼリュス崩落から、人の顔色を伺い、人々に優しさを与え、…人々が心の内に隠していたものを察せられる程に長けてしまった。

己の内は誰にも諭させないというのに。

彼が弱音を吐くのは夜。人を殺してしまった日の夜に魘され飛び起き、けれど涙は流さずにひたすら呟くだけ。

『ごめんなさい』と…。


それ以外は彼はずっと笑っていた。死ぬ間際まで、儚い笑みで。

彼が満面の笑顔であったのは、何時だっただろうか。

ゆっくりと変わっていった笑み。
思い出すのは、やはりあの儚い笑みだけ。

そう気付いて愕然とする。

彼は私達を必死に見てくれたのに、私達…いや、私は彼を見ていなかった。

彼は私を優しいと評した。だが、こんな私が優しい筈がない。

本当に『優しい』というのは、あの子供の事を言うのだ。

今は亡き導師イオンは、彼をずっと優しいと言っていた。

たった2年しか生きられなかった子供に解った事を、何故私は解らなかった…!


そして、こうやって後悔している自分を見て、彼はやっぱりこう言うのだろう。

『そんな事いいのに。でも…ありがとな!やっぱりジェイドは優しいな!』


彼はそうして断罪では無く許しを与えるのだ。


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