短編集
□beautiful life
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アイツが還ってこなかった。
必ず戻ると、約束したのに。
あの決戦から三年が経って。ルークとアッシュの墓の前で成人式を行うとキムラスカから招待状が届いた。けれど、俺達仲間はアイツは戻って来るんだと思っていたから、丁重にお断りして、始まりの場所へと集った。
そこに現れたのは、アイツの半身。
眉にある眉間の皺さえ変わらない、けれど見る者には解る、変わってしまったその容姿。
ルークの身体は、アッシュに取り込まれてしまった。記憶も身体も全てを失い、アイツが存在したと解るモノは何一つ残っていない。
それは俺にとって、絶望であった。
そして、同時にアッシュに憎しみを持つのは当然の事でもある。
愛しい子供の全てを、アイツは奪ったのだから。
けれど、それでも俺にはアッシュを殺せない。中身がアッシュだとしても、ソレを構成しているのはルークの身体だ。
殺せる訳がない。
そしてまた、この絶望しか残っていない世界から去ることも出来ない。
ここは、世界は、愛しい子供が命を懸けて救った世界なのだから。
世界をほんの少ししか楽しめなかったあの子供の分も、世界を満喫して。次に会えたときの為に、土産話を沢山用意しといてやろう。
そう思って、彼がいるであろう音譜帯を見上げる。
それは、既に癖になってしまった行為だった。事ある毎に見上げ、そうして囁くのだ。「今日も世界は何時も通り動いているよ」、と。
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