短編集

□世界
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ナナリーが安心して過ごせる優しい世界。
再びナナリーが見たいと思う、綺麗な世界。

ソレを望むのは兄としてイケナイコトなんだろうか?


世界


いつもと同じように、生徒会室で書類を片付ける。
会長であるミレイがまた山のように書類を溜めていた為、授業が終わってから数時間も経つというのにいまだに書類の山は減らない。
見ていても減る事は無いが、見ずにはいられないその光景にため息を吐きながら凝ってしまった肩を左手で揉んでいると、誰かがつけたのかテレビがついている事に気がついた。
現実逃避も兼ねてその映像を見やると、ナナリーの姿が映る。

(あぁ…生きている…。)

彼女の記憶を無くし生きていたころ。傍には彼女の代わりにロロがいた。彼女を中心に過ごす日々が、ただ彼を中心に生きる日々に変わっただけ。それなのに、何故満たされないのかがわからなかった。確かに、世界を変える為に生きた数ヶ月は憎しみに溢れていたから、充実はしていたんだろう。ソレに比べると、何も出来ない無力な自分を実感はしないにせよ、どこかで感じていたのかもしれない。
けれど、違う。
俺の生存理由は、ナナリーだったから。その立場を同じくしたロロであっても、どこかで違和感があったのではないだろうか。

彼ではない、彼女だからこそ、俺は今を生きていると思えていた。
だからこそ、彼女のいない時間に満たされる事は無かった。

(それでも、今となってはどうしようも無い事。)

何故なら、彼女はこの地区の総督であり、自分は「ゼロ」なのだから。

彼女が、優しい世界を作ろうと、テレビの中で訴える。
誰にとっても優しい世界。
日本人にとって、ブリタニア人にとっての優しい世界。

その後ろに、スザクを伴って。

(ナナリーにとって優しい世界はゼロがいない世界であり、守ってくれるスザクがいる世界。ならば、ナナリーにとって俺はいらない存在なんだろう。)

掌から、何もかもが堕ちていく。
大切だったものは、この手には何も残らない。

世界に弾き出された、とは、スザクの言葉。確かにそうだろう。この手に掴めるモノは何も無いのだから、俺自身を求めてくれるものも無い。世界からいなくなっても、世界は困らない。ならば俺がした事は―――


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