シリーズもの

□嘘であれと希う
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朝起きると、銀ちゃんから夜中の3時頃に、「腹減って動けない。」と、なんとも気の抜けたメールが送られていた。

相変わらずだなぁ、なんて思いながらも、急いでお弁当を作って万事屋まで持って行く。

時刻は12時15分。朝ご飯には間に合わなかったものの、丁度お昼ご飯の頃だろう。

お弁当には、以前銀ちゃんに褒められた甘い卵焼きと、手作りのハンバーグが入っている。どっちも銀ちゃんの大好物で、どこのお店よりも、誰の手作りよりも美味しいと絶賛してくれた。

バカの一つ覚えみたいに銀ちゃんの大好物を詰め込んだお弁当を片手に、私は万事屋の引き戸に手をかけた。


『銀ちゃーん、お昼ご飯作ってきたよー。』


シン、と静まったままの万事屋。

いつもなら神楽ちゃんや新八君が出て来てくれるのに。今日はお休みなのかな。メールしてから来た方がよかったのかも。

そう思いながら玄関に踏み込むと、聞き慣れない、嬌声が聞こえた。


「銀さぁん、ん、あぁ。」

「っは、やべ、」

「あん、」


部屋の奥から、若い女の人の声と銀ちゃんの声。息が荒く、厭らしさを含んでいる。

彼らが「何をしているか」、安易に想像できた。

その瞬間、お弁当を包んだ風呂敷が手から滑り落ち、銀さんの笑顔を思いながら作ったお弁当は、乾いた音を立て、玄関に散らばった。


「!」

「ん、やだ、なに!?」


気付かれたと同時に、私は咄嗟に万事屋を飛び出した。

嘘だ嘘だと心の中で何度も自分に言い聞かせたけれど、止まらない涙がそれを否定した。



(嘘であれと希う)

浮かれてた自分が、
今まで銀ちゃんのことを好きだった自分が、
馬鹿みたいに思えた。


 

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