-似た者同士-
□変化
2ページ/7ページ
「もっと〜〜」
「このままだと遅くなんだよ。今日じゃなくても見れるだろが」
徹平は腕の中でじたばたする俊を気にせず、駅へ向かう道を歩いていった。
(人多いな……。やっぱ休みだからか)
ようやく駅にたどり着いた徹平と俊だが、ここでもひとつ、問題が起きた。
それは切符を買おうとした時のことだった。
「たしか370円だったな……。ほら、一旦降りろ」
徹平は切符を買うために、抱いた俊を下ろそうとした。しかし。
「やぁ!……」
俊は徹平のTシャツの袖を掴んで、なかなか離そうとしなかった。それどころか、何かから隠れるように、顔を徹平のシャツに押し付けている。
「だ〜もう暑苦しいな!なんだってんだよ!」
「う〜、いっぱいやだ〜……」
イライラが滲み出る徹平の言葉に、俊は声を震わせながら反応した。
声だけでなく身体まで震わせ、徹平の肩から改札の方を見ては、すぐに目を背ける俊の行動に、徹平はあることを思い出す。
「そういえば……。
――もしかして、この人の集まりが恐いのか?」
徹平の問いに、俊は何度も首を縦に振った。見知らぬ人に慣れていない俊にとって、多くの人の波はそれこそ恐怖の対象だ。
「だったら帰るか?俺は行くけど」
「……やだ、いく」
「どっちだよ……」
徹平は仕方なく、俊を抱いたままなんとか切符を買い終えると、改札に向け歩みを進める。改札が近づくにつれて俊の手の力も増していく。
(しょうがねえ、か)
徹平は俊を抱きなおすと、顔を押し付けてくる俊の頭を不器用に撫で続けた。
それで少しは安心したのか、電車に乗る頃には、座席に座る徹平の肩越しに、顔を上げて窓の外の風景を眺められる程には慣れたようだった。
※※※※※※※※※※※※
「ここ?」
「そ。てかお前にはつまんねえと思うけどなあ……」
電車に揺られること40分と少し。
明治の時代から同じ場所に残る、富士の森美術館がそこにはある。歴史を感じさせる建物のデザインは、それ自体が美術品のように思えるほどだ。
「いいか?ちゃんと静かにすんだぞ?」
美術館の入口で、徹平はしゃがみ込んで俊に念をおした。俊は小さな人差し指を立てると、それを口の前に持って行った。
「し〜、なの?」
「静かに出来るなら、いい子だな」
そう言って、徹平は俊の手を取った。