短編集

□指定教育法―遠藤広太と今野玲奈の場合―
2ページ/10ページ



それは、成長を逆行させる、つまり身体を若返らせる薬の投与である。移動先の子供達と同じくらいの身体の持ち主なら、受け入れが容易であると考えられたからだ。


そう、広太も玲奈も、その薬を投与され、身体を3歳くらいまで幼くされた者達だった。広太は主に素行面で、玲奈は主に発達面で、それぞれ指定教育法が適用されたのである。






さて、保育園の裏まで来た2人だったが、そこには背の高い草が鬱蒼と生えており、2人の小さな身体で進むのは困難だった。それでもなんとか草を掻き分けて、保育園の敷地と外を隔てている金網の本へと2人はたどり着いた。


「ん〜と……、ああ、あったあった」


金網に沿って歩いていた広太は、目当てのものを見つけ、玲奈を手招きした。そこには、子供がなんとか通れるくらいの穴が、ぽっかりと金網に空いていた。


「うっし、じゃあ逃げよーぜ」

「あ、う、うん。でも、どこに行くの?」

「んなこたぁ、逃げてから考えりゃいいんだよ」


そう言うと、広太はさっさと金網の穴を通って外に出ていった。玲奈も少しの間逡巡していたが、結局金網の穴を通って広太の後を追うのだった。



「とにかく、なんとかして元に戻りてーよな〜」

「そ、そうだね……」


前を歩く広太は、足を止めるとクルリと振り返った。


「ところでさー」

「え?何、かな」

「玲奈ってなんで小さくなったんだ?実は、すげー荒れてたとか?」

「う……。あんまり、人に言いたくない、かな……」

「またそれかよー。聞くといっつもそう答えるよな〜」


口を尖らせる広太に、玲奈は曖昧に笑った。
しかし、絶対に教えたくはなかった。玲奈はスカートの前をギュッと掴んだ。


「さて、もうちょい離れないと見つかっちまうかな〜。あの爽やか男に」

「翔馬先生のこと?」

「ああ。男のクセに保育園の先生やってるなんて、考えらんねーよな」


広太は、自分のクラスの保育士に軽口を叩いた。しかし。


「そっか、そりゃー悪かったな」


背後から聞こえてきた、自分のものでも玲奈のものでもない、しかし聞き覚えのある声に、広太は背筋に冷たいものが走った。それは玲奈も同じだったようで、2人は互いに目配せすると、同時に駆け出した。

ちらりと横目で後ろを見ると、案の定、2人の担当保育士である樋口翔馬が立っていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ