-翔馬と由香-

□由香とゆか
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(何度来ても慣れないな……)


俺は制服姿で、長く続く廊下を歩いていた。行き交う人々からの怪訝な視線を感じながら。

やがて目的の場所にたどり着いた俺は、そこにいる女性に話しかけた。



「こんにちは。あの、樋口由香の迎えに来ました」
「あ、由香ちゃんのお迎えね。――由香ちゃ〜ん!お兄ちゃんが来たわよ〜!」

女性が由香の名前を呼ぶと、友達と絵を描いていた由香が振り向いた。そしてロッカーから自分のバッグを引っ張り出すと、それを持って俺の元に走ってきた。

「う〜、おそい〜」
「ごめんごめん。さ、帰ろう。――今日も1日、ありがとうございました」

俺は女性に頭を下げると由香の手を取った。

「せんせーさようなら〜!」
「はい、さようなら。また明日ね」

由香も挨拶をして頭を下げた。女性はかがんで手を振ることでそれに答えた。


先程通った長い廊下を歩いていると、1人でいた時よりも周りの視線を強く感じる。たしかに高校の制服では浮きまくっているのだろう。

「ねーねー、あしたもほいくえんこれる?」
「ん、ああ。」

手を繋いだ先の由香は、楽しそうに歩いていた。こちらは特に視線を気にしていないようだ。無邪気な笑顔にこちらも思わず頬が緩んでしまう。



由香が保育園に行くことになったのはこの秋からだ。

きっかけは、夏休みに行った水族館。
あれから、由香は今まで以上に子供っぽい仕種をみせるようになり、9月の中頃に大学が始まっても行きたくないと駄々をこねるようになった。特に1人で通学するのを激しく拒んだのだ。
そして、そんな由香に、母さんは1つの提案をした。初めは不思議そうな顔で話を聞いていた由香だったが、話を聞くうちにだんだんと顔を輝かせていった。
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