-翔馬と由香-
□水族館にて
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「ん〜〜……」
翔馬はベッドの上で大きく伸びをすると、枕元に置いていた携帯を開いた。携帯の時計は10時ちょうどを知らせていた。
(まだ10時か……)
翔馬は携帯を閉じると、再び目を閉じた。
いや、閉じようとした。
「翔馬〜〜〜!!」
突然の声と共に部屋のドアが勢いよく開かれる。そしてボフッという感触と重さが翔馬を襲った。
「ん〜〜〜」
翔馬が首だけ起こすと、自分にのしかかっている由香と目が合った。その手にはなにかを握っている。
「翔馬、早く起きて!」
「どうしたの?朝っぱらから……」
翔馬はあくびをしながら上半身を起こす。由香は翔馬のふとももに座り直すと手に持っている紙を見せた。
「『御崎水族館』?……なにこれ?」
「ママがね、どうせ翔馬暇なんだろうから、ここに連れていってもらえばって貰ったの。夏休みは安くなるんだって!!」
どうせ暇という母の言葉が気にかかったものの、暇なのは事実だ。それに御崎水族館は海に面しているので、いくらか涼しいかもしれない。
「そうだね。別にやることないし、行こうか」
「やったー!」
早く行こうと急かす由香を落ち着かせながら、準備を進める翔馬の顔は嬉しそうだった。翔馬自身、水族館は昔から好きな場所の1つなのだから。
「ねぇー、早く〜〜!」
「待ってなって――ほら、出かける前にトイレ行ってきな」
翔馬は玄関で早くも靴を履こうとしている由香に声を掛けた。時間的にもそろそろ尿意が高まってくるはずだ。
「由香、おしっこない」
「だーめ。姉貴はいっつもそう言って間に合わないんだから」
翔馬は半ば強引に由香をトイレに連れていった。