短編集
□誤解が描く現実
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7月末、アメリカ合衆国、とある空港――
「えーと、ああ、あの家族だな。ほら、プラカードみたいなの持ってる」
「あ、ホントだ。『Welcome Asuka!!』だって」
「あの人達が……」
日本から長時間のフライトを終え、小山内明日香(オサナイ アスカ)は両親に連れられ、アメリカに足を踏み入れた。
「大丈夫?ちゃんとパパとママがいなくても頑張れる?」
「平気だよ!あたしもう、16歳なんだからね!」
「そうなんだけどなぁ。なんだか、心配なんだよねぇ」
到着ロビーまで出てきた3人は、視界の先に佇む家族の元へと歩を進める。
『こんにちは!スチュワートさんですね?』
『ええ。はじめまして、ジェフ=スチュワートです。そして、妻のモリーと、娘のジェシカとアンジェリカです』
現地人らしい家族の元までたどり着くと、明日香の父親は英語で話しかけた。あまりに早くて、明日香にはあまり聞き取れなかったが。
『はじめまして、小山内さん。妻のモリーです』
『はじめまして!ジェシカです!』
『はじめまして。今日から2週間、娘をお願いしますね』
明日香の母親も、相手方の女性2人――モリー、ジェシカと握手を交わす。語学堪能な両親に連れられて、何度か英語圏の外国を訪れたことはあるものの、明日香にとってはまるで全く知らない言語で会話が行われているように感じた。
「ほら、明日香も自己紹介」
「あ、うん……。
『は、はじめまして。アスカ、オサナイです。しゅみはほんをよむこと、です!』」
母親に促されるまま、拙い英語で自己紹介をする。それでも相手には伝わったようで、モリーは膝を折って笑いかけた。
『うん、とっても上手よ〜。よく出来ました。
――思っていたより、ずっと大人びた子ですね』
『本当ですか?私達から見ればまだまだ子供ですけれど……』
『親だからそう思うんですよ。他人から見れば、しっかりしてますし』
モリーの言葉に首を傾げる父親だったが、男性――ジェフも同調したことで、そんなものかと思い直し、娘に向けていた視線を前に戻した。
『では、私達はこれで。何か変なことをしたら、遠慮なく叱り付けてやってください』
『ははは、わかりました。さてと、それじゃあ行こうか、アスカ』
明日香の父親の言葉に笑いながら、ジェフは明日香に呼び掛ける。