短編集

□とある暗部の思春期ガール
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学園都市。

それは、以前は空想の産物であったはずの超能力を科学として解明し、運用するための完全独立教育研究機関である。
総人口約230万人のうち8割を学生が占めるこの街は高い壁に囲まれており、『外』とは20年以上の隔たりが生まれるほど、『中』では最先端の科学技術が研究されている。この技術力を以ってして、学生に対する、科学的な超能力開発が行われているのである。開発を受けた学生は、定期的に行われる身体検査(システムスキャン)によって能力の強度が測定され、その結果によって無能力者(レベル0)から超能力者(レベル5)の6段階に分類されているのだ。

さて、一見華やかに見える学園都市だが、『裏』の世界も存在する。光あれば影が生まれるように、最先端の技術が集まる学術機関という名の裏側では、それらの技術を利用した非人道的な実験が繰り返されたり、様々な暗部組織が血に塗れた世界を形作っているのだ。


そんな暗部組織の1つ、『アイテム』。学園都市に7人しかいない超能力者(レベル5)、麦野沈利を筆頭に4人の学生で構成されたこの組織は、学園都市上層部の道具(アイテム)として、他の暗部組織の監視・制御を担っていた。
しかし、現在は壊滅状態にある。1ヶ月程前に起きた暗部組織同士の抗争に巻き込まれ、さらに『アイテム』内部でも仲間割れが発生してしまったためだ。4人の内1人は死に、2人が重体という惨々たる状況で、組織としての体裁を整えることは不可能だったのである。



そして今。唯一大きな怪我を免れた『アイテム』構成員の1人、絹旗最愛(キヌハタサイアイ)は学園都市に23ある学区のひとつ、航空産業に特化した第23学区の空港、その待合ロビーにいた。顔を目一杯上げて見ているのは、到着機の案内板だ。その視線の先、ロシアから学園都市に向かっている航空機の表示の横に、Arrivedの文字が浮かぶ。

到着口から吐き出される人、人、人。己の低い身長を呪いながら、精一杯背を伸ばして目的の人物を探していると。


「麦野!滝壺さん!」

「あっらー、絹旗じゃない!久しぶりねー」

「……きぬはた。久しぶり、だね」


人波の中から、2人の少女と1人の少年が抜け出してきた。3人とも表情には疲労の色がありありと見えていたが、それでも前述の麦野沈利(ムギノシズリ)と、滝壺と呼ばれた少女――滝壺理后(タキツボリコウ)は、出迎えた絹旗に笑顔を向けた。
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