-翔馬と由香-

□お正月
1ページ/11ページ

今年最後の月、12月も残すところ5日間。世間は忙しく回っているけれど、俺は普段と何も変わらずに、今日も由香の迎えに来ていた。


「おっにいちゃ〜ん!!」

俺の姿を確認するやいなや、由香は教室の奥から猛然と走ってきた。俺は由香の身体を受け止めると、クルリとその向きを変えた。

「走ってきたとこ悪いけど、ちゃんと自分が使ったものくらい片付けてきなさい」
「は〜い」

再び教室の中に駆けていった由香を見ていると、後ろから声がかかった。

「あ、樋口君」
「先生?なんですか?」

振り返ると、由香のクラス担当の先生が立っていた。先生は手に持っていた紙を渡してくれた。

「園長先生――お母さんから頼まれたの。そこに書いてあるものを買っておいて欲しいって」
「ああ、そういうことっすか。わかりました」

俺がポケットにその紙をしまうと、ちょうど片付けを終えた由香がカバンを持って駆けてきた。

「おかたづけできたよ!」
「よく出来ました」

俺は由香と手を繋ぐと、先生に挨拶をして出口へ歩いていく。その途中で、すれ違う人に何度か挨拶された。
もう他の親御さんも、普通に挨拶してくれるようになっていた。入園したばかりの時に感じたような、居心地の悪さはもう感じなかった。




※※※※※※※※※※※※


「え〜っと、トイレットペーパー買ったから次は……」
「なにかうの〜?」

カートを押しながらメモに目を通す俺の横で、由香はどこから持ってきたのか、おもちゃ付きのお菓子をいくつもカゴの中に入れていた。

「少なくともこれは買いません」
「え〜、かって〜〜!」

俺が首を横に振ると、由香は目を潤ませながら不満げな顔で俺のことを見た。ここでダメと言ったら、すぐにでも泣き出しそうだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ