SS


□raindrops
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窓の外で、雨がアスファルトに打ちつける音が聞こえた。
薄ら目を開けて見えたカーテン越しの光はいつもより柔らかく、だがそれは確かに朝の訪れを告げている。


ふかふかのダブルベッドに薄手の掛け布団、それに加えて、腕枕と腰に添えられた手。
「おはよ」
紅が自分を見ていることに気づき、ファイはにっこりと微笑んでみせる。

いつもと同じ光景だった。





<raindrops>





「雨、降っちゃったね」
前日に見た予報通りの天気に、ファイは残念そうな表情を浮かべる。
「あぁ、1時間くらい前に降り出した」
「黒たん、そんな早くから起きてたの?」
「お前が遅いだけだろ」
確かに、枕元に置いてある時計の短針は「8」を差している。
今日は日曜で仕事は休みだが、これが平日であればとうに出勤している時間である。

「仕方ないでしょー、オレは朝は苦手なのー」
「あぁ、知ってる」
まだ少し寝惚け顔のファイは、大きく欠伸をして瞳を潤ませている。
そんなファイの姿に黒鋼は目を細め、腕に乗せられた頭を包み込むようにしてくしゃっと髪を撫でた。


「ユゥイはそんなことないんだけどなぁ…」
「あいつの話はするな」
その名前を聞いて、黒鋼はあからさまに不機嫌になる。
だがそれに構うことなく、ファイはふふっと笑って再び言葉を紡ぐ。

「そうそう、イタリアに住んでた時はね、いつもユゥイが一足先に起きて、それでいつもおいしい朝ごはんを用意しててくれたんだよ」
「…つまり俺に朝飯作れってか」
「あはは、そんなんじゃないってばー」
ただ懐かしく思っただけ、とファイはさらに皺を増やしていた黒鋼に告げる。
「…さ、朝ごはん作らなきゃ、ね」
そして身体をくるりと転がして腹這いになり、肘をついて上半身を起こした。


が、それ以上動くことが叶わない。
1度は緩められた腕が、再度その身体にしっかりと絡められている。
「黒様…?」
「もう少し此処に居ろ」
目を丸くするファイを尻目に、黒鋼はその腕を解こうとはしない。
「…雨だしな」




蒼も紅も再び瞼の奥に隠された後の、外から聞こえる先程より穏やかな音。
それは、優しい子守唄のように。



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