リクエスト置き場

□ミカン イン ザ ミドルハイスクール
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「・・・もうこうねんのこうりょうにゆくをおくる
もうこうねんこうかくろうをじし
えんかさんがつようしゅうにくだる・・・」
伸びやかな声。
あぁ、あなたは天使なのか悪魔なのか。
僕には皆目見当がつかないよ。
夏の陽光に照らされ、茹だるような暑さの中、クラスメイトは船を漕ぎ二年一組の教室には彼女の清々しい声が響く。
彼女の名前は吉田真理ちゃん。
この素晴らしき抑揚をつけて教科書を読み上げる彼女はまさに僕のディーバ。
みんなはなぜそれが理解出来ない。
なぜこうも彼女の声を聞きながらも平静を保てる。
そう、彼女は僕の片思いの相手なんだ。
国語教諭の鎌田(通称ガマガエル)はぼけーっと外を見ている。
授業をする気があるのだろうか。
そんな事を考えながらも、僕は彼女の声に意識を傾ける。
集中、集中、集中。
彼女の声帯を通る呼吸がヒュッと音をたてたのを確かめて確信した。
なんて愛しい声帯なんだ、緊張と弛緩を繰り返しながらも油断なく発声を続ける。
例えるならそうそれは甘い蜂蜜のような。
「ちょっとあんた何考えてんのよ?」
「は、はひ?」
「今顔がニヤケてたわよ?やらしいわね」
隣の席の金子美鈴がヒソヒソとニヤニヤしながら喋りかけてくる。
三度の飯より恋ばなが好きだと公言するだけあって、やはり敏感に察知してくるのだ。
まったく有名な詩人と同姓同名って人にはろくなんがいない。
実はジビキさんもそうなんだよね。
「美鈴、そりゃ僕だって思いだし笑いくらいするさ」
「いや、あんた今すごい鼻の下伸びてたわよ」
「ち、ち、ち、ちがうよ!」
「ふぅん。やっぱ真理ちゃん?」
ダメだ、鋭すぎる。
顔がゆでダコになってしまった。
「へぇ、ああゆうのが好みなんだぁ。らしいって言えばらしいよねぇ」
目を細めた大蛇が迫ってくる。
「でもあんた真理と話したことあんの?ってかあんた真理の事嫌いだと思ってた」
「話した事ないけどさ。
でもどうして嫌いだと思ってんのさ?」
「ちょっと待って、あんたが真理の事苦手ってみんな知ってるよ」
「え?真理ちゃんもそう思ってんの?」
「そりゃ気付くでしょ。あんた真理の半径二メートル以内には絶対近寄らないし、話しかけられても一言も喋んないじゃん」
正確には一メートル八十センチだ。
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