題名は未だ無し (創作小説)

□第三章
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一、

あー、もうイライラする。
思春期の多感な青少年に毎日こんな事させるなんて。
ジビキさんも酷いよ。
僕は子供じゃないのに。
ヒトクイのお兄ちゃんはいつも無口にネズミ食べてるし。
いやもういいんだそれは。
もう慣れたから。
ただ問題なのはなぜ僕が毎日こんなに臭くて重い冷凍ネズミを運ばなきゃいけないかだよ。
上野のペットショップで我が家のアナコンダにやる二十日鼠をくれ。
と注文してからはや1ヶ月。
僕は毎日このくそ暑い中を、上野とジビキさんとヒトクイのお兄ちゃんが住む三番町のマンションまでを往復している。
ジビキさんはいったいどこからそんなお金を出してきたのか知らない(知りたくもない)けど、マンションを一棟持っていてそこの最上階にジビキさん。
地下の倉庫にヒトクイのお兄ちゃんが住んでいる。
最近流行りの格差社会の縮図みたいだね。

ヒトクイのお兄ちゃんの体は抗生物質を飲ませる必要も無く、どんどん治っていった。
体調もばっちりっぽい。

さて、今日も餌やりだ。
マンションのオートロックを外して地下への階段を下る。
突き当たりのドアの脇についている電子装置に八桁の数字を打ち込む。
無駄なハイテクだ。
無断で入った人間は一人残らず食い殺されるに決まってるのに。

二、

扉を開くとヒトクイがどこにもいない。
両壁にそびえ立つ本棚とベッド、机、起動しっぱなしのパソコン以外何も無い。
ヒトクイが外出するわけがないし、別に外に出るなとは言ってないが、指名手配犯でもある彼は、最近特に外に出たがらなくなった。
よっぽどあの施設がお気に召さなかったらしい。

ふと配管が剥き出しの天井を見上げると、ヒトクイと目があった。
彼は配管に掴まって僕を見下ろしていたのだ。
「ななな、何やってんですか?」
「ご飯を待ってた」
ぼそぼそと話すヒトクイは飛び降りるとミカンから冷凍ネズミの入った段ボールを受け取って丁寧に箱を開け、モソモソと食べ始める。
最近のヒトクイの食事の仕方は酷くおかしい。
終始ミカンを上目使いで見、ビクついている。
ネズミを運び込んで食べさせはじめた当初は物凄い勢いでパクついてたのに。
「ねぇお兄ちゃん。最近なんでそんなにビクビクしてんの?」
ビクッと大きく震えてしばらく口をモゴモゴさせてから答えた。
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