天藍国記 黒鳳凰 1

□第十六章 I'll protect.
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第十六章


I'll protect.
〜俺がお前を…〜






――雨・・・

雨の音がする・・・

(――誰・・・?)

泣いてる――誰か・・・

(あれは・・・)

――あたし?

小さい頃の・・・

ぼんやりとした意識の中で、恵は暗闇に浮かび上がる二つの人影を見た。

(――あ・・・)

――おかあさん・・・

正座する母の膝に顔を埋め、泣いているのは――紛れもなく、幼かった頃の自分だった。

雨音・・・

母の膝に埋もれて泣く自分・・・

(あ・・・)

――みっくんの・・・

弟――光夫が逝ってしまった日・・・。

あの日――確かに雨が降っていた。

(此れは――『あの日』の、幻影・・・?)

『――どうして・・・?』

泣きじゃくった儘、幼い自分が母に問い掛ける。

『どうしてなの・・・?』
『ひとりで――』


母は幼い恵の髪を撫で、涙を零し乍言った。

『みっくんね、ひとりで――ひとりで逝っちゃったのよ・・・』

ひとりで・・・

生まれて初めて出来た――あたしの弟・・・。

年の離れた――未だ赤ちゃんだった・・・。

(――みっくん・・・)

護れなかった――小さく尊い命・・・。

――遠くて

痛い――記憶・・・。

(あ・・・)

――二人の姿が霞み、消えてゆく・・・。

(待っ・・・)

『――――』

(・・・え?)

誰?

今――誰か・・・

『――・・・かった』
『逢いたかった』
『早く――早く来て・・・』

「だ、れ・・・?」

『君に――逢いたい・・・』

闇の中で恵に語り掛ける声。

(逢いたい・・・)

貴方は――誰・・・?










《――ちゃん・・・恵ちゃん!》
《しっかりしてーぇっ》

(ん・・・)

――此の声・・・

《どぉしよぉ、おねぃたまっ!恵ちゃん、おめめあけてくんなーいっ》
《しんぢゃいやっ!恵ちゃんっ!》
《恵ちゃんがしんぢゃったぁ〜・・・》

(・・・あのね)

「――死んでないから」

聞き捨てならない二妹(アルメイ)の言葉に、頭は冗談じゃないとばかりに覚醒する。

むくり、と身体を起こし――むっつりと恵は反論し、生きてる様を見せてやる。

《ああっ!恵ちゃん!》
《いきかえったあぁぁぁっ!》

二羽の翔鶏(シァンジー)は、大喜びで恵にまとわりつく。

「死んでないってば・・・あ、イタタ・・・」

殴られた後頭部がズキズキと疼く。

(信っじらんない・・・)

――最悪。

《だいじょおぶっ!?恵ちゃんっ》
「なんとか、ね・・・あんた達、着いてきちゃっの?」
《恵ちゃん・・・》

翔鶏が恵を見上げる。

「そっか・・・ごめん」

恵は二羽に謝罪した。

思えば、真剣に心配してくれていたのだ。

莓莓(メイメイ)の呼び出しに応じた時も、部屋を飛び出した時も・・・。

「ごめん――ね・・・」

(それにしても・・・)

――此処は何処だろう。

見た所洞窟の中の様だ。

大きく開いた入り口の向こうに、森の中の様な景色。

直ぐ傍に、湖が見える。

遠くで雷雲が鳴き、雨は激しさを増している。

後頭部を擦り乍、恵は洞窟の中を見回した。

「暗いね・・・」

呟いてから、ハッと気付く。

「翔鶏!莓莓ちゃんは!?」
《あのこなら、あっちぃ・・・》

翔鶏が示す方向を見ると、洞窟の奥に蹲り震える華奢な背中を見つけた。

「莓莓ちゃん?」

恵は声を掛け乍、震える背中へ歩み寄る。

「大丈――」

振り返った莓莓の頬が、涙に濡れている・・・。

「――夫・・・」
「うっ・・・ぅ」
「莓莓ちゃん・・・」
「お、お兄、様――お父様ぁ・・・」
「・・・・・・」

(怖い――よね・・・)

未だ十七の・・・

(『女の子』だもんな・・・)

「・・・大丈夫だよ、莓莓ちゃん」
「・・・・・・」

莓莓は濡れた瞳で恵を見上げた。

しっとりと湿った長い睫毛の奥の目の中に、小さな驚きに似た色が浮かんでいた。

「莓莓ちゃんは――あたしが護るからね」

にっこり

恵が微笑んで見せた途端、莓莓の瞳から更に大粒の涙が溢れ出した。

「うぅっ・・・ぇっ・・・」

恵の胸に縋り付き、莓莓は泣きじゃくる。
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