天藍国記 黒鳳凰 1

□第十四章 Ruled heart.
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第十四章


Ruled heart.
〜闇が動く刻〜






――かちゃ・・・。

「ハイ、もう一度口開けて?」

ア"ー・・・と、口を開く鶴太太(ホータイタイ)の両肩で、三羽の翔鶏(シャンジー)がつられた様に口を開ける。

「・・・あのね」

(此れで何度目・・・?)

匙で掬った粥を鶴太太の口元に運び――恵は翔鶏達に言った。

「あんた達じゃないの。此れは鶴太太の御飯なの――さっきも言ったでしょ」
《なによーぅ。ねーぇ》
《ちょっとくらいねーぇ》
《ごはーん、ごはーん》
「あんた達の御飯は後でちゃんと貰ってあげるから――ほら!食事の邪魔しない!」

諦めた様に、三羽は鶴太太の肩から飛び退いた。

「全く・・・。鶴太太、ほら」

再び粥を掬い、鶴太太の口へ入れて遣り乍恵は言った。

「今日は鶴太太、後で清拭しようね――あっ!天気も善いし、足浴もしちゃおうか。きっと気持ち善いよー」
「恵・・・」

梅華(メイホワ)が、じっと恵を見る。

「でも、そろそろ涼しくなってきたから、野外は不味いかなぁ。風邪んなったら大変だもんね」
「恵、アンタ・・・」
「一番陽当たりの善い部屋って何処かなぁ、借りれないかな・・・」
「――何かあったね?」

――うっ・・・!

(梅華さん・・・鋭い)

「な――んにもない、けど・・・?」
「そうかねぇ・・・」

梅華は探る様に恵を見て言った。

「アンタ、落ち込む度やたらと――必要以上に鶴太太の世話に精を出す傾向があるだろ?
陽天(ヤンティエン)を出発する前日だって、いきなり鶴太太を入浴させてたし?」
「そ――それは、だって・・・旅に出る前にって思って・・・」
「ふぅん・・・」
「恵・・・」

笨重(ベンジョン)が、遠慮がちに口を開く。

「もしかして――寝てない・・・?」
「え・・・」
「だって・・・鶴太太の朝御飯・・・」

――恵は夜間、鶴太太の尿布(ニャオブー)のチェックや、体位変換の為、三〜四時間毎に起き出している。

夜間充分な睡眠を得られない分、朝は笨重が鶴太太の着替えや排泄、朝食の介助をし、恵はかなり遅く迄寝る事にしている筈だった。

其の恵が、只でさえ皆より早い時間に朝食を採る鶴太太の朝食介助をしているのだから、笨重は戸惑っている様子だ。

「や――ホラ、初めて蒼天(ツァンティエン)来たし、目ぇ冴えちゃって。
そんな事より・・・」

恵は笨重を見上げる。

「笨重――元気?」
「あ・・・」

一瞬、目を丸くさせてから――笨重は、照れた様に笑った。

「う、うん・・・。し、心配――ごめんなさい・・・。梅華姐さんが・・・」
「梅華さんが?」
「焔星(イェンシン)が、おいら見棄てたら――怒ってくれるって・・・」
「それは・・・心強いね、かなり・・・」

陽天で見た、梅華の剣鞭(ジェンビェン)捌きを思い出し乍、恵は言った。

「――だろ?」

ふふん、と梅華が笑う。

「――で?アンタの方は何があったんだい?」
「あたしは別に・・・」

空になった椀を置き、玉蜀黍の粉でトロミを付けた、お茶の入った湯呑みを手に取る。

匙でお茶を掬い、鶴太太の口元へ運び乍、恵は笑って言った。

「梅華さん、まるで皆のお姉ちゃんだね。でも大丈夫だよ――ホントなんもないから・・・」
「・・・・・・」

訝しむ様な梅華の視線を感じ、後ろめたさ迄感じてしまう・・・。

――嘘

なんもない事ない癖に・・・

でも・・・

(どう言えば善いのか・・・)

説明の仕様がない。

莓莓(メイメイ)を泣かせてしまった後ろめたさもある。

それに・・・

――焔星(イェンシン)・・・。

天好(ティエンハオ)市街で二人穏やかに食事を楽しんだ事が、嘘の様に思い出された。

(言いたい事あんなら――はっきり其う言えばいいじゃん・・・)

初対面では、あれだけ暴言吐き捲った癖に・・・。

「――早上好(ザオシャンハオ※おはようございます)」

青天の声・・・。

恵は身を硬くする。

「あぁ、青天――早上好」
「ザ、早上好・・・」

梅華と笨重が、青天に其う声を掛ける。

「・・・・・・」

背後に青天の視線を感じ、恵はこっそり深呼吸した。

「おはよっ、青天」

くるんっ、と振り返り――恵は笑って見せる。

「あ――『おはよう』じゃないよねっ。早上好!」
「・・・恵」
「へへ・・・発音、変?」
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