天藍国記 黒鳳凰 1

□第九章 Bless power.
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第九章


Bless power.
〜小さな小さなお友達〜






如龍(ルーロン)は拳を固めた。

睨み据えた先には、空(コン)がいる。

「よし――行くぜ」
「――来い!」

二人は拳を振り上げ――叫んだ。

「じゃんけん――」
「――ほいっ!!」

如龍は、グー。
空は、パー。

すかさず――空が叫ぶ。

「あっち向いて――ほいっ!!」
「あ・・・」
「やっりー!おれの勝ちーぃ!!」
「くうぅぅっそーっ!!又負けた!!」
「ねぇ・・・飽きない?」




一夜明け――好象大人(ハオシャンダァレン)は一行に、如龍も共に蒼天(ツァンティエン)迄同行させる事を告げた。

其の事に関して、意外にも焔星(イェンシン)は何の反論も返さず、文字通り黙って同行を黙認していた。

却って青天(ティエン)の方が僅かに眉を潜めて見せただけで、矢張り後は何も言わず、昨夜と同じ様に如龍に対して友好的に振る舞っている。

そして其の如龍はと云えば・・・。

「ぃよぅっし!もう一回だ!」

蒼天に向かう馬車の中で、つい先程、恵が教えたばかりの人世(レンシー)の手遊び――『あっち向いてほい』に、空と共にかなり熱心に興じている・・・。

「もう何十回目?よく飽きないよね・・・」
「恵!此れおもしれーなっ!」

空が子どもらしい満面の笑みで、はしゃぎ乍言った。

「そぉ・・・良かったね」
「こらっ!よそ見すんなっ!もう一回だっ!」
「何度やっても同じだよーっ」
「言ったな、坊主っ!」
「坊主じゃねぇよっ!」

如龍に羽交い締めにされ、こめかみに拳をぐりぐりと押し付けられ乍、空が喚く様に声を上げる。

「もー・・・暴れないでよー?」

今にも、乱闘ごっこを始めそうな二人の側を離れ、馬車の入り口間際に座り込んだ。

「アンタが教えたクセに」

くすくすと笑い乍、しんがりを務める梅華(メイホワ)が馬車に馬を寄せて来た。

「空の馬車酔いを紛らわす為に、さ」

言い乍、梅華がウィンクを投げ掛けてくる。

あたしが男なら、イチコロだな――と思いつつ、恵は唇を窄めた。

「そりゃそうだけど・・・」
「良いんじゃないですか。空も楽しそうですし・・・」

同じく『避難』してきた青天が恵の隣に座り込んだ。

「それに――『敵』って訳でも・・・なさそうですし、ね」
「青天・・・?」

じっ・・・、と空と戯れ合う如龍を見つめる青天が、不意にこちらを見た。

「僕ね――蒼天に着くのが、楽しみなんですよ」
「・・・は?」

其れ迄、如龍を見つめていた探る様な目をころりと変えて――青天はにっこり微笑んだ。

何処か誤魔化された様な気がしたのは気の所為なのか・・・。

にこにこと青天は続けた。

「蒼天で、僕の大好物が食べられるかもしれないし・・・」
「へぇ・・・」

恵は思わず聞き返した。

「青天の大好物って何?」
「何だと思います?」

ふふ、と笑い乍青天は唇に人差し指を充ててみせる。

「人世の食べ物ですよ。余り出回ってませんけど、此の天藍(ティエンラン)にも秘かにファンが多いんです」
「人世の・・・?」

恵は首を捻った。

「実は――」

青天がにっこりと微笑む。

「ナー ドゥ――納豆です」
「・・・は?」
「納豆ですよ。知ってます?大豆を腐らせた・・・」
「いや、其れは知って・・・って、えぇっ!?其んなモン迄こっちにあんの!?」
「美容にゃ良いらしいけどさ、アタシはパス。どうもあの臭いがねぇ・・・」
「おや、美味しいんですよ?」
「青天が――納豆・・・」

恵は惚けた様に呟いた。

硝子玉の様な蒼碧の瞳。
少し癖のある明るい色の髪。

人世にいれば、さぞかし白いテラスで、午後の陽射しを浴び乍、紅茶を飲みつつ優雅に読書に勤しむ姿の似合いそうな秀麗な顔立ち・・・。

其の青天が――納豆好き・・・。

「ぷっ・・・」

思わず恵は吹き出した。

「?どうかしましたか?」
「ご、ごめん――何でも無い・・・」

(見た目はまるで王子様なのに・・・)

――王子と納豆・・・。

「ぷっ・・・くふふっ」

(アイドルの追っかけやってる様な女の子達が見たら、どう思うんだろう・・・)

「ほらほら――見てごらん。もう道に磚(ジュアン)の欠片が落ちてる。蒼天は近いね」

梅華の声に、恵は笑うのを止めて入り口から首だけを出して、下を見た。
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