天藍国記 黒鳳凰 1

□第八章 Holy orders.
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第八章


Holy orders.
〜道士のお仕事〜






――僵屍(ジァンシー※キョンシー)と馬腹(マーフー)の闘いは続いていた。

青年は川岸に抱き上げた恵を降ろし、木剣を拾う。

「しかし、凰娘娘(ホァンニャンニャン)が何でこんなところにいんだか・・・お付きナシじゃ危なくね?」
「あ、あたしは水汲みに・・・」

その時、僵屍の脇を擦り抜けた一頭の馬腹が、青年の背後から飛び掛かった。

「――――!!」

オギャアァァッ!

「――おっと」

青年は振り向き様に、懐に素早く手を入れ、数枚の札の様なものを取出し――投げた。

木剣をかざすと、札がまるで見えない壁に貼りつけられた様に、五ヶ所に散って空中にぴたっと留まる。

札と札の間に導火線が走る様に線が引かれ、五芒星が浮かび上がった。

――瞬間、閃光が発し馬腹の身体が跳ね飛ばされる。

「!?」
「この周囲だけ結界張ったの。これ以上は入ってこれないから」

青年は言いながら、鈴を振る。

ジャリーン!

「目ぇ閉じてな!」
「!?」

僵屍達の鋭い爪が一瞬にして長く伸びた。

僵屍達は腕を真っ直ぐに伸ばしたまま、その鋭い爪で馬腹の身体を突き刺す。

ギャアァァッ!!

伸びた腕を振り下ろし、爪で馬腹の身体を切り刻もうとする僵屍を見て、恵は思わず口元を覆った。

飛び散る馬腹の緑血・・・。

次々と死体と化して逝く馬腹達・・・。

「よぉし、そこまでだ。野郎共!」

ジャリーン!

再び鈴が鳴る。

僵屍の爪が短くなる。

ジャリーン!

集まって来る僵屍達・・・。

「集合集合・・・整列しろ!」

青年の目の前に、規則正しく僵屍達は整列した。

青年はくるんっ、と恵を振り返り――苦笑した。

「おいおい、大丈夫かぁ?だから言ったろ、『目ぇ閉じてな』って」
「あ・・・」

いつの間にか、結界とやらも消えていた。

「立てるか?あ〜あ、びしょ濡れだな」

しゃがみ込み、恵の顔を覗き込む。

「――おーい。大丈夫?」

ガタガタと震えながら青年を見上げた恵の目が、青年を通り越し、一点を見つめた。

「・・・・・・」

(何アレ・・・)

ぽかん、とする恵の視線の先を追って、青年が振り返る。

一体の僵屍が、行く手を樹に阻まれていた。

まるで樹に抱きついているかの様に、樹の両脇から腕を伸ばし、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねている。

(やだ・・・)

「おいおい――何やってんだ・・・」

呆れた様に、青年が頭を掻き鈴を振るった。

ジャリーン!

僵屍は一歩後ろに大きく退き、進行方向を変えてこちらへ向かってきた。

(なんか・・・)

――へんなの・・・。

思わず、くすっと笑いが洩れる。

「ったく、しっかりしろよなぁ」

青年が胸元から札を取出しかざすと、僵屍達が次々と札の中に吸い込まれてゆく。

僵屍達を吸い込んだ札が、まるで玩具の様に小さな棺桶に変わった。

(・・・この人は・・・)

「――で?」
「へ?」
「なぁんで凰娘娘がこんなとこいんのかって」
「あ・・・」

――どうしよう・・・

(そういえば、あたしって・・・狙われてるんだった・・・)

助けてくれたとはいえ、見知らぬ青年を信用して勝手にべらべら喋って良いのだろうか・・・。

(でも・・・悪い人じゃないみたいだし・・・)

――いい・・・かな?

「あたし、あの・・・皇天(ホァンティエン)へ・・・」
「・・・あぁ!確かそんな噂聞いたな。そういや、仲間もいるって・・・」
「あ、うん・・・あっちに・・・あたし、ただ水汲みに・・・」
「ふぅん・・・で、俺が寝込んでんの見てムラムラきた、と」
「・・・は?」

一瞬訳が分からず目が点になってしまう恵の前に、手のひらをかざしながら、うんうんと青年は続けた。

「いやいや、分かる!気持ちは分かるぜ?こんな色男、避けて通るのぁ勿体ないって気持ちぁ・・・」
「・・・はぁ!?」
「だからって、寝込み襲うのはマズイでしょ〜?いやマズイよ、仮にも凰娘娘が」
「――違うって言ったじゃんかっ!!アレはそっちがいきなり・・・っ」
「うんうん、分かった!そーゆー事にしといてやるって!」
「あのねぇっ!!」
「だから、さ――」

にかっ、と笑い青年は続けた。

「飯――呼んでくんね?」
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