天藍国記 黒鳳凰 1
□第七章 Cheerful priest.
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第七章
Cheerful priest.
〜陽気な道士〜
ジャリーン!
「――さぁ、道を空けろ!!呪われたくなくば、近寄るな!道連れにしちまうぞ!!」
威勢良く鐘鈴(ジョン リン)が鳴る音が町の通りに響く。
表通りで、羽根蹴りをして遊んでいた子ども達の動きが止まり、羽根は子ども達の足の隙間を縫って、地に落ちた。
シャン・・・と、羽根に付いた小さな銅鑼が涼やかな音をたてる。
興味深々と言った風に、通り向こうから来る一行に見入る子ども達に、家の中から親の呼ぶ声が浴びせられた。
「おい、早く中に入れ!」
――まだ昼日中だと言うのに、町の大人達は子ども等を家の中に呼び入れる。
「ねぇ、アンタ。あの子、道士様だろ?随分若いねぇ」
「あぁ。大方若過ぎて、皇天(ホァンティエン)の葬儀にも喚ばれないんだろ。
この時期、呑気に『里帰り』させてる位だ。――ったく!何だってこんな真っ昼間からこんな街中に・・・」
町中の家と言う家から、好奇の目が注がれる。
「ケッ、言いたい放題言ってやがんな――すいませんね、だ」
少し長めの黄色い道苞(ダオ バオ)を纏った青年は、苦虫を噛み潰した様な顔をする。
袴の様にもスカートの様にも見える道苞の裾から覗く黒いズボンを纏った足を、どことなく忙しげに左右交互に動かし歩を進ませ乍、青年は舌を鳴らした。
「見知らぬジジィの葬儀がそんなに気になるなら、てめえ等が行けっつうの。こいつらだってこんな真っ昼間じゃ、命懸けの里帰りなんだぜ」
ぶつくさ言いつつ、鷹の様に黄色い目を、ふと空に向けた。
長く編んだ明るい茶金の髪が、尻尾の様に揺れる。
「そういや、陽天(ヤンティエン)に顕れた凰娘娘(ホアンニャンニャン)も皇天に向かったって噂だな・・・」
――凰娘娘か・・・。
「どんな美少女か知らんが、ご苦労さんだこと・・・」
――勝手に『美少女』だと決めつけている辺り、我ながら好色だと思う。
「おっと、仕事仕事・・・さぁ、道を空けろ!!」
再び威勢良く叫び、鐘鈴を鳴らす。
「真っ昼間の移動じゃ辛かろうが、此処を抜けりゃ直き森に入る。
も少し辛抱頼むぜ兄弟」
規則正しく列を組み、もの言わずについてくる『兄弟』達に陽気に語り掛け、青年は再び鐘鈴を振るう。
「呪われたくなくば道を空けろ!!
――僵屍(ジァンシー)様のお出ましだぁ!」
――不意に、鼻がムズいた。
「・・・っくしょん!!」
「風邪ですか?恵」
青天(ティエン)が心配そうに恵の顔を覗き込む。
「だ、大丈夫・・・?寒い?」
笨重(ベンジョン)もそう言って、毛布を差し出した。
「寒いよ・・・。陽天出てから急に冷え込んできた気ぃする・・・」
ありがとう、と笨重の差し出した毛布を肩に掛ける。
「秋真っ盛りですからねぇ・・・年中初夏の陽天から一歩出てしまえばこんなもんですよ」
「そういや、アンタ服って揃ってんのかい?」
馬から車内に移動した梅華が、風に当たり乱れた髪を直しながら問うた。
「ん・・・荷物準備する時に、好象大人(ハオシャンダァレン)の屋敷のおばさん達が一通り揃えててくれたのがあるけど・・・とりあえず、パーカー着よっかな・・・」
車内の隅の床下を持ち上げ、中に潜り込む。
荷物の中から、天藍(ティエンラン)に来た時に着ていた白いパーカーを取り出した。
「鶴太太(ホータイタイ)のも出そ・・・」
更に荷物をごそごそと漁り、少し厚めの鶴太太の上着を取り出す。
「恵、大人が少し休むって」
笨重の声が床上からした。
「じゃあ、鶴太太少し起こそう。寝たきりじゃキツいし」
パーカーを着て、鶴太太の服を手に床上へ上がった。
――陽天を出発してから、早一週間。
鳴鳥(ミンミャオ)の砦に近い峠を経て、陽天付近の衛星国を越え、荒野を進み――一行は蒼天(ツァンティエン)に近い森に差し掛かっていた。
「鶴太太、ちょっと起きよっか」
「ア"ー・・・」
鶴太太をトランスして、車椅子へと移す。
「外へ出しますか?良い天気ですよ」
「う〜ん・・・でも寒くない?」
「今上着出したんだろ?着せておやりよ。板出してやるから」
「ん・・・ありがとう、梅華さん」
鶴太太に上着を着せてやり、車椅子を入り口の梅華の出した板の上へ連れていく。
「おいらがやるよ・・・」
笨重が、車椅子の傍らに立って言った。