天藍国記 黒鳳凰 1
□第五章 Fair game.
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第五章
Fair game.
〜託された祈り〜
鋭い刄で切り裂けば
あの笑顔があの温もりが
もう一度――きっと手に入るから・・・
恵が振り返った瞬間、空(コン)の振り上げた手に小刀が閃めくのが見えた。
「!?」
刄が恵を捕えようとした刹那――強い大きな手が、空の手首を掴んだ。
「あ・・・」
「・・・何の真似だ」
空の手首を掴んだ主の紅く燃ゆる両の目に、怒りの色も悲しみの色もなく、ただ空の奥深くを探る様な紅だけが、空を捉えていた。
「焔、星・・・」
渇いた喉を引きつらせた空が、その名を呟く。
「空、お前・・・――」
「いっ・・・」
イ ヤ ダ
「うっ・・・ああああぁっ!!」
「空!?」
「いやだあぁぁぁっ!!」
焔星(イェンシン)の手を振り払い、空が駆け出す。
「空!!」
弾かれた様に――恵も駆け出し、後を追う。
「空!待って!!」
――一人残された焔星は、空の落としていった小刀を拾い上げる。
「・・・毒刃、か――」
刃から匂う臭みの強い毒・・・。
恐らく妖魔の内蔵から作り出したものだろう。
だとすると――敵は一般人ではない。
妖魔から薬物を捕るのは命懸けだ。
その為、妖薬は値が張る。
「・・・ふん」
――動き出した。
未だ見えぬ敵を確信した瞬間、強い風が焔星の衣服をはためかせた。
強い――風が吹き付ける。
恵は、向かい風に逆らいながら必死で空の姿を追った。
(足・・・早・・・っ)
息を切らし、ひたすら走る。
空の姿は、既に遥か前方に小さくなってしまっている。
(空・・・)
何で?
あたしを狙ったの?
どうして・・・
『――いやだあぁぁぁっ!!』
(・・・・・・!)
空の叫びを思い出した瞬間、ぐんっとスピードが加速した。
(・・・違う)
空――じゃない。
空とは逢ったばかりだけど、あんな事を進んでする様な子じゃない。
きっと誰かに言われたんだ。
でなきゃ、あんな・・・
『――焔星みたいに』
あんな風に・・・