天藍国記 黒鳳凰 1
□第四章 Cruel warmth.
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第四章
Cruel warmth.
〜小さな暗殺者〜
とてもとても小さかった頃
ずっと欲しかったものを持っていた気がする。
失ってしまったのはいつからだろう・・・
――翌日。
陽天(ヤンティエン)の空は晴れ、昨夜の雨が嘘みたいにやんだ。
結局青天(ティエン)は好象大人(ハオシャンダァレン)の屋敷に泊まり込み、翌朝帰ってきた大人と入れ違いに自分の屋敷へと帰って行った。
大人は恵と笨重(ベンジョン)に午後には又出掛けるとだけ伝え、自室にて仮眠し、先程起きて軽く粥を啜ってから、焔星(イェンシン)を伴い出掛けてしまった。
(空はこんなに晴れているのに・・・)
気持ちはどこか晴れない。
(それに・・・)
恵は己の手元を見る。
(こんな天気の善い日に・・・)
――鶴太太(ホータイタイ)の尿布(ニャオブー ※おむつ)を洗濯している自分に思わず溜息が出てしまう。
(そりゃー『看護人』(カンフーレン ※介護者)だけどもさ・・・)
元の世界でも、職場で粗相してしまった利用者の衣服をよく洗濯していた事を思い出してしまう。
(紙おむつってないわけ・・・?)
うん、と腰を伸ばし思う。
こんな事している場合なのだろうか。
青天は恵も皇天(ホワンティエン)に連れて行く、と言っていた。
それ以外、詳しい日程も何も知らされていない。
(そりゃ昨夜は、あたしから話切っちゃった訳だけども・・・)
洗い終えた尿布を物干場へと運ぶ。
(青天・・・)
――気にしてるかな?
あんな・・・逃げる様に話を切ってしまって・・・。
(馬鹿みたい・・・)
自分は所謂『よそ者』だ。
看護人が必要だから、付いてこいと言われたのだからその通りにすれば善い。
理由や事情等、青天達からしてみれば話す必要もないのかもしれない。
(でも、それじゃ何か・・・)
嫌だ――と、思った。
そんなの勝手なエゴかもしれない。
はしたなく思われる好奇心にとられても仕方ない。
けれど・・・
(あれ・・・?)
洗濯籠を抱えたまま、恵は思考と足を同時に止めた。
母屋の窓の下に誰かいる。
「――空(コン)?」
恵が声を掛けると、小さな背中がぴくん、と反応し振り返った。