天藍国記 黒鳳凰 1
□第三章 Devastate heart.
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第三章
Devastate heart.
〜異変より来たりし者〜
――闇の中で
「――――っ!!」
目が覚めて――飛び起きる。
「あ・・・」
怯える様に暗い部屋を見回し、大きく息を吐いた。
(・・・違う・・・)
――此処は・・・天藍国。
人世(レンシー)では・・・元の世界ではない。
(・・・『此処』は違うのに・・・)
唇を噛み締めると、頬を涙が濡らし始める。
――もう・・・厭だ。
恐い
怖い
コワイ
「・・・こわい・・・」
(いつまで・・・縛られるの?)
今もまだあたしを支配する。
闇の中の『記憶』という名の恐怖・・・。
金槌を振り上げる恵の頭上から、じりじりと太陽が照りつける。
「・・・あ゙づい゙・・・」
「あっついねぇ・・・」
恵の声に、笨重(ベンジョン)も、どこか渇いた声で応じる。
額から首筋から汗が吹き出し、衣服をも湿らせてゆく。
昨夜、焔星(イェンシン)の愛馬・風王(フォンワン)によって蹴り壊された厩舎の扉は、焔星が青天(ティエン)に宣告した様に恵と笨重が修理する事になってしまった。
(何も、蹴り壊す事ないじゃん・・・)
文句は腐る程あるが、原因は自分にある。
ひたすら金槌を振るうと、掌の出来かけのマメが疼いた。
汗の塩分が染み込んで、痛いなんて可愛いものではない。
焼け付くようにひりひりと熱い。
「暑い〜・・・水浴びたい・・・」
首元に巻き付けていたタオルで、顔を拭く。
「こんな頑丈な扉、蹴り壊しちゃうんだもんな〜・・・」
厩舎の中では、風王が涼しい顔で桶の水を飲んでいる。
(・・・馬刺しにしちゃうぞ)
こっそり、思ってみる。
「〜〜・・・っやめ!ちょっと休憩!」
どうせ後は金具を付け、戸口にはめ込むだけである。
金槌を置き、腰を降ろした。
「・・・ねぇ、今って秋じゃないの?コレ残暑?」
ぱたぱた、と手で仰ぎながら笨重に問う。
「・・・?陽天(ヤンティエン)は、毎日こんな感じだけど・・・今日はすごいあついよ・・・?」
「そうなんだ・・・」
「炎天(イェンティエン)はもっと暑いですよ」
くすくす、と笑い声がした。
「あ・・・青天・・・」
「辛苦了。(シンク-ラ)調子はどうですか?」