天藍国記 黒鳳凰 1

□第二章 Adventure day.
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第二章


Adventure day.
〜見えてくる気持ち〜









  


恵が、この天藍国に来てから今日でもう一週間。

来た翌日から、恵は鶴太太(ホータイタイ)の世話を開始する事になった。

(・・・と、言ってもADLも分からないし・・・)

――ADLとは、利用者の日常生活動作(Activities of Daily Living)の事で、食事・排泄・入浴・着脱・寝起き等の日常生活に必要な基本動作全てを指し、介護度の判断材料にもなる重要事項だ。

例えば、立位を保てない利用者がいるとしよう。

これもADLだ。

その利用者に、ADLの把握も無しに無理に立位を取らせれば、利用者も介護者も、事故に繋がる可能性は大いにある。

恵は、好象大人(ハオシャンダァレン)にADL把握時間が必要であると伝えた。

好象大人は、例の如く『好好』と頷き、最初の三日間は恵を笨重(ベンジョン)に付かせた。

今まで、鶴太太の世話を請け負ってきたのは笨重だった。

笨重は介護知識皆無の男である。

彼は拙い言葉で、恵に問われるまま、鶴太太の様子を答えてくれた。
恵も、笨重に分かりやすい様に質問内容に気を遣った。

「鶴太太って、立てないの?」
「うん・・・立つのは駄目。危ない・・・」
「じゃあ、オムツ使ってるんだね?」
「オムツ・・・?」
「『おしめ』だよ。お尻に充ててない?布とか、紙とか・・・」
「あ・・・『尿布』(ニャオブー)・・・?」

二人の『申し送り』は、こんな風に手探りだった。

恵は、笨重に聞いた事をメモに取り、仕事帰りの好象大人に言葉の確認をしなければならなかった。
介護業務では、ほんの小さな言葉の捉え違いが事故に繋がる事も有り得るからだが、結果的に恵に天藍の言葉――その殆どが中国語らしいが――を、学ばせる事となった。

その為、夜は鶴太太を寝かし付けた後、好象大人が恵に言葉の授業を付けてくれる事が多くなった。

痛む腰、疲労した身体に睡魔が容赦なく襲ったが、恵には、その時間が楽しいものに感じられた。

時折、青天(ティエン)が桃や李(すもも)・桜桃(さくらんぼ)を手に、陣中見舞いに訪れ、好象大人と一緒になって、恵に言葉を教えてくれた。

青天は恵の勉強の為に、記帳まで用意してくれた。
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