天藍国記 黒鳳凰 1
□第一章 BlacK phoenix.
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第一章
BlacK phoenix.
〜異世界 天藍国〜
全長三メートルはあろうかという、巨大なセイウチの様な生物が、怒号を上げ砦を見据えた。
「・・・フン」
突然イェンシンが砦の絶壁から飛び降りた。
「あぶなっ・・・!!」
恵は驚き、ベンジョンの手を振り払い、絶壁に駆け寄った。
ぞっとする様な高さだ。
イェンシンの身体が落下していく。
不意に、砦の裾から一騎の黒い馬が駆け出してきた。
イェンシンがひらり、と馬にまたがる。
「哈ーっ!!(ハ-)」
一声上げて、風を斬り駆け出した。
恵の背後で先程の秀麗な顔立ちの男――ティエンが声を張り上げた。
「弓隊前へ!!騎馬隊!イェンシンに続け!撹乱!!」
オオオォォ・・・!!
砦から一斉に馬に乗った人々が駆け出した。
良く見れば、皆具足の様なものを身につけた男ばかりで、手には銃や剣や槍を持っていた。
勇ましいばかりの荒声をあげながら、男達はイェンシンに続く。
――ヘイフォンホァンに続け!
――ヘイフォンホァンに遅れをとるな!!
口々にそう叫びながら、男達は駆けてゆく。
巨大な化け物は、遥か先頭を駆る一騎を見据え、目を見開く。
化け物の目が、カッと光り、閃光を発した。
閃光は稲光の様に煌めきながら、イェンシンに向かって線を描く。
イェンシンは馬上に立ち上がり、鞍を蹴って高く跳躍する。
まるで、曲芸師の様な身の軽さだ。
馬はイェンシンが跳んだ瞬間、向きを変えた。
ドンッ!!
閃光が馬のいた場所に落ちると、その一ヶ所だけぶすぶすと黒焦げになる。
跳躍したイェンシンが両手を交差させ、勢い良く左右に開いた瞬間――、イェンシンの両手から炎が発し、化け物に向かって飛んで行った。
胸元に炎を受けた化け物は、怒号を上げ、めちゃくちゃに首を振り回す。
イェンシンが地上に向かって降下していく場所に、先程の黒馬が飛び込んでくる。
息が合った様に、イェンシンが馬上に着地する。
馬は、疾走を続けた。
イェンシンは馬上に立ったまま長めの手綱を取り、馬を操ってゆく。
(何・・・あの人・・・)
手から炎が出ていた。
身のこなしも鮮やか過ぎる程軽やかで、人間技ではない。