天藍国記 黒鳳凰 1
□序章 First contact.
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序章
First contact.
〜天謳により召喚されし処女〜
自信が欲しい
強さが欲しい
あたしがあたしである事の
確固たる――証が欲しい
アタシハ此処二必要デスカ・・・?
鉛の様に重い感情を胸中に抱えながら、恵は自室のベッドに倒れ込む。
深く息を吐くと、胸中の重さが身体をも重くしていくのを感じた。
一階の家人は誰一人、恵が帰ってきた事に気付いていないであろう。
――そうである事を祈りつつ、足音を忍ばせて家に入ってきたのだから。
一階からは賑やかなTVの音と、時折聞こえるわざとらしい程の父と呼べる男の下品な笑い声が聞こえてくる。
(馬鹿じゃないの・・・)
つまらなさそうな目をしたままそう思う。
気付いて――いるのだ。
あの男は・・・。
それならそれで構わない。
要は――恵を『いない』ものと振る舞ってくれさえすれば・・・。
枕に顔を埋めてから寝返り、仰向けになって天井を仰ぐ。
いつから、等と忘れてしまった。
幼い頃からだろうか?
中学〜高校からだろうか。
恵はこの家の異端児だった。
――『だった』気がする。
昔から特に秀でた所はないと思っていたし、周囲の人間もそう思っていたであろう。
学校の勉強はどちらかと言えば苦手だったし、それを強要する父親も嫌いだった。
思う通りにならない恵を、幼い頃から尋常ではない程の暴力で押さえ込もうとしてきた父を恵は心底軽蔑していた。
高校を卒業して、暫らく定職が決まらずフリーターをしていた頃、父の暴力はエスカレートして、職を探しに行く以外は家から出る事を禁じ、恵は自室で半強制的なひきこもりを強いられていた。
どうか、父が自分の存在を忘れてくれる様にと願い、毎日自室で息を殺して生活していた。
――が、願い虚しく毎晩の様に荒々しくドアを開き侵入し、恵を息の根が止まる程に打ちすえ、罵倒し、髪を掴み引きずり回し、蹴飛ばし、時には首を絞めては、また一階に降りていった。