目を覚ましてスザクの姿を認めるなり、彼女は優しく微笑んでこういった。



「まあスザク。私ったら、日本人は皆殺しにしなくちゃいけないのに」




ごめんなさい、と、喉元に伸ばされた頼りない腕を、どうして振り払うことが出来ただろう。

















アンドロメダ















「すざく、みてっ、あれ!」




愛らしい笑い声を上げて先を行くユーフェミアを「待って」とスザクは呼び止めるが、彼女は止まらない。コスモス畑を無邪気に逃げ回る彼女の薄紅色のドレスが、ひらり翻った。


「ユフィ!また転んで泣いても知らないんだからね!」

「だいじょうぶですっ!そしたらまたスザクがうけとめてくれるからっ!」


そう微笑んだ彼女は逃げるのに飽きたのか、くるり、と振り返ると、スザクの腕の中に飛び込んできた。ふわり、と鼻をくすぐるのは、優しい春の香り。




気まぐれなお姫様だ、と、苦笑すれば、「みてっ、一番星!」と、ユーフェミアが夜空を指差していた。西の空には幾数の星が瞬いている。



「本当だ。綺麗だね」

「あれはユフィがみつけたのっ。だからユフィのお星様なのっ。お名前をつけてもいいでしょう?」

「うーん、でも星にはちゃんと名前があるからねえ」




そういったスザクに「そうなの?」とユーフェミアは空色の瞳を真ん丸に見開いた。




「そうだよ。星にはちゃんと名前があるんだ。…ユフィの名前は誰がつけてくれたのかな?」


「え…と、コーネリアおねえさまっ。れきしのせいじょさまのなまえだ、っていってましたっ」


「そっか。ユーフェミア、って素敵な名前だね。なのに違う名前で呼ばれたら、ユフィも悲しいだろう?」



その言葉に、ユーフェミアはしばらく考えて、大きく頷いた。そして「ごめんなさい」と、夜空に向かって両手を合わせたユーフェミアに、スザクは優しく微笑んだ。




行政特区日本で起こった未曾有の大殺戮。その直後、ユーフェミア・リ・ブリタニアはブリタニア軍によって殺害されたと公式に発表されているが、事実は違う。



彼女を殺すことがどうしても出来なかったコーネリアは、最愛の妹の凶行を止めるために、彼女を薬漬けにした。


薬の作用で幼児退行した彼女は、知能の低下が著しく、無邪気さばかりが目立つ。


今の彼女には、ルルーシュに掛けられたギアスや、行政特区の記憶もない。


精神虚弱に陥った彼女は、五歳から十歳までの記憶を日々さ迷い、明日には今日の記憶もなくなる筈だ。もしかしたら、明日にはあの惨劇を思い出して、スザクを殺すのかもしれない。



ゆっくりと、スザクはユーフェミアの白い手を握り締めた。




「…ユフィ、帰ろうか」

「まだっ!ルルーシュやナナリーにも、このおほしさまをみせてあげるの!」

「うん…でも、もう遅いから明日にしよう。ナナリーはまだ小さいから、すぐ眠くなっちゃうよ。だから帰ろうね」


ユーフェミアはそれ以上なにも言わず、手と手を繋いで、満天の星空の下を二人で歩いた。


幾筋もの流れ星に、星のシャワーね、と、ユーフェミアは無邪気に笑う。



「ねえ、ユフィ」

「はいっ」

「僕のこと、好き?」

「だいすきですっ!」


一番にだいすきです!と、ユーフェミアはぎゅうぎゅうに抱き着いてくる。


そっか、とその白いまろい頬を撫でながら、スザクは微笑んだ。くすぐったいです、と、笑うユーフェミアは、明日の朝になればスザクのことも忘れてしまう。彼女の脳には、十歳以前の記憶しか残らない。



朝がくるたび、ユーフェミアは母親や姉を求めてぐずつくが、一日の終わりにはこうしてスザクのことを大好きになる。それだけでもう十分だった。





「ユフィは明日も僕のこと好きでいてくれるかなあ」


「はいっ!スザクは?スザクはずっとわたしのことすきでいてくれますか?」


「ふふ、どうかなあ」


「えっ、ずっとすきでいてくれなきゃいやですっ。スザクっ!わたしを好きになりなさいっ」



その言葉に、スザクは呼吸をするのも忘れた。真剣そのものにそう問うたユーフェミアを力任せに抱きしめる。



スザクどこか痛いの?なみだがでてる、というユーフェミアを抱き寄せて、足元で踏み付けたコスモスは、人格を蹂躙されたユーフェミアに見えた。













アンドロメダ
(全部忘れて笑えないよ)




END

スザク×ユーフェミア。

全部を忘れたユフィの笑顔を見るたび、辛くなるスザク。

なんだろうこれ。

ユフィを救済しようとするたびずっこけてる気がします。



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