小説

□悪戯
1ページ/3ページ


「でね、それでね、昨日笹塚さんに……」

分かってんのかなぁ、こいつ。
今俺ん家なんだけど。
桂木が俺の家くるって言うから、それはそれは、今日を楽しみに待ってたんですよ。
今日の為にいつもごちゃごちゃしてる家の中、キレイに片付けて、掃除機かけて。
ちゃんと見られちゃまずいもん(エロ本とかね)も隠したし。完璧、っしょ?

なのに、だよ?

俺が桂木来んのどれだけ楽しみにしてたか分かって無いんじゃないの。さっきから他の男の話ばっかしてさぁ。
ネウロの話、
吾代さんとやらの話、
石垣……さんの話、
笛吹さんの話、
それから今は笹塚さんの話だ。

いい加減我慢の限界なんだけど。
「キレるよ?」
ぼそっと呟けば、
「何か言いました?」
と、いつもはすげえ癒される桂木の笑顔。だけど今は苛々を増進させるだけだ。
あのさぁ、と溜め息を吐き出す。
「今何処にいるか分かってる?」
「え?」
ぽかんとした表情を俺に向ける桂木。
「匪口さんの家、だよね」
「分かってるんなら、ちょっと良くないんじゃないの?」
「え?」
「他の男の、話」

一拍おいて、桂木の顔が赤く染まる。
「ね。良くないよね?」
「あ、う、ごめんなさ、」
「だぁめ。こっちおいで」
ぐいっと隣に座る桂木を引き寄せる。
そのままもたれる様に俺の胸に収まった桂木を、抱きしめた。桂木は腕をバタバタさせて暴れている。
「ねぇ、桂木」
「ふぁ!?何っ?」
「おわびに、桂木をちょーだい」
にっこり笑うと、桂木は俺の言った内容を想像したのか、赤い顔を青く変えて、それからもう一度赤に戻した。
「ころころ顔色変わるね」
「え、いやっ、冗談……ですよね?」
「あはは、そう聞こえる?」
ピタリと桂木は押し黙った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ