小説

□どれだけ好きか、知ってる?
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外は雨。
サァァア、という音が、部屋の中にも聞こえてきた。

「どうしたんですか?いきなり来て、だなんて……」
「……」
「しかもすぐに電話切れるし、……匪口さん?」
呼び出されてきたのに、呼び出した本人が口を開かない。どうしたのかと少し不安になって、ちら、と目を覗く。
瞬間、
「ぇ、っ?」
桂木の視界が揺れた。気がつけば目の前に覆いかぶさっている匪、背中には壁。
(顔が、近い)
「ひひひひ匪口さんっ……!?え、あ、ぁのッ」
動揺して、逃げようとしてみたが、匪口の腕に阻まれて逃げる事など無理そうだった。何故こんな事になっているのかまったく分からない桂木は、慌てるばかり。
あの、と言って匪口の目を見たその時、あまりにも、その目が――冷たかった、から。
「……っ」
言葉に詰まって、そして目を背けてしまった。
なんで、何であんな目――
ドクドクと心臓の鳴る音だけが響いているような気がした。

しばらくの、沈黙。目をそらさず、ずっと無言で桂木を見続けていた匪口が、ゆっくりと静かに、口を開いた。
「桂木。昨日一緒にいた、あれ、誰?」
「っ、あれは、事件で知り合った人で……ッ」
匪口の目を、うまく見ることが出来ない。
「ふうん?」
氷のような目。こんな目を、今まで桂木は見た事が無かった。
「そーなんだ?」
発する言葉にも、冷たさは感じられて。本当の事を言っているのに、やましい気持ちなんかないのに、
言い訳をしてるみたいだった。
「じゃあさ、何で抱きついてたの?」
「あれは、お菓子っ、貰って嬉しくて、つい……だから別に、他意は無っ「へぇ」
桂木の話を最後まで聞かずに、匪口は冷めた目で見下ろしながら、短い言葉を重ねた。
「つまり、さ」
そらせない程に深く覗き込まれる。耳につくのは心臓の音、かすかに聞こえる雨の音。
「桂木は、食べ物くれたら誰にでもなつくんだ?」
「……ちが、」
「事実そうでしょ?ねえ?」
いつもの、匪口さんじゃない――
桂木がそう感じる程に、匪口の目と言葉は冷たいもので。こんなに責められるのは何でなのかなんて、最初は考えもしたけど、今になってはもう、どうにかその自分に向ける感情を抑えてくれないか、とばかり桂木は思っていた。

『ねえ知ってた?俺って結構、嫉妬深いんだよ?』

にっ、と笑った顔に、ゾクリと背中が寒くなった。
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