小説

□すれ違い、両想い。
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お前が大好きだけど、

俺の愛は歪んでる――



「んっんあっ!ゆぅ、やぁッ」
今日も知らない女〈ヤツ〉を抱く。俺の下で喘ぐこいつは、数日前に出会ったばかりの大して知りもしない女。
そんなやつを抱いていても、考えるのは桂木の事だけ。今、となりの部屋にいる、愛する人。

「桂木……っ!」
聞こえないように小さくつぶやいて。
こんな女、桂木のかわりに過ぎない。行為が終わればじゃあね、と出て行く名前さえ分からない女。
俺はそいつが出て行くとすぐに、となりの部屋のドアを静かに開けた。
あぁ、ほら。今日もやっぱりいる、俺の愛しい桂木。
「やっぱり来てたね……?桂木」
分かってるんだよ、いつもこの時間に来る事。この時間より少しだけ前、狙って俺はいつも、桂木が来る部屋のとなり、女を連れ込むんだ。

「ねえ、今の人……」
「ん?あぁ別に彼女とかじゃないよ。俺今彼女いないしね」
「あ、うん……そっか」
桂木、ねぇ今何考えてるの?今出て行ったあの女の事?俺の、事?ずっと、俺の事だけ考えてくれれば良いのにね。
分かってる、俺は歪んでるんだって。
でも、桂木が俺の事を考えてくれる、俺の事で嫉妬してくれる、それだけで。こんな事が、止められない。

歪んでる。

「もしかして桂木が、彼女になってくれる?」
「え、……ひ、匪口さんそれっ、皆に言ってるん、でしょ?」
そんなワケ無いじゃん。桂木、お前にしか言わないよ、俺が愛してるのはお前だけ。
「あは、バレた?」
でも、言わないよ。うん、そう分かってる、俺は歪んでるから。
「んっ」
桂木の唇に俺のを重ねて、桂木を侵食してく。
手はゆっくりと敏感な部分へと伸ばす。
「は、んぅ……匪口さん……っ」
艶めかしい桂木の声。
どくん、と心臓がなった。
「桂木、可愛い」
こんな表情〈かお〉をさせてるのは、“俺”なんだ。
俺の行動、俺の言葉、全て重なって桂木は俺にこの表情〈かお〉を向ける。なんて、愛しい。
俺は桂木に、歪んだ愛情を向ける――。

「桂木、愛してるよ」
俺の愛は、歪んで、歪んで、桂木を侵して。
そうしてどんどん、深みにはまっていく。
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