小説

□どんな顔をしているだろう
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“あのこと”があってから、いつものように面倒くさい授業をサボろうとしても、どうにも保健室に足が向かない。
仕方が無いから、教室に居るしかない。この俺が、一日中真面目に授業に出ているなんて。
美作あたりは、頭打ったか?なんて言ってきた。
他のヤツらもどうしたんだ、と尋ねてきたが、なんでもねーよと誤魔化した。
アシタバも不思議そうな顔をしていたが、あいつは何も言ってこなかった。でも、それのほうがいい。聞かれてもどうしていいか分からない。
なんなら顔も合わせづらくて、ここ数日はあまり近づかないように俺も動いていた。


はぁ、とため息。
このままじゃアシタバにも不審がられる。
でも、どうしろっていうんだ。

どうしようもなくて、項垂れる藤の背後から、声がかかる。
「藤くん」
「っ……なん、だよ」
にっこりと、笑っていたのは、先生だ。
「保健室、最近こないね?」
「あ、あぁ、ちょっと……な」
「やっぱ気にしてる?」
「あ?なにを、」
「この前のコト」
え――?
「起きてた、よね――?」
「……ッ!?」
「そんなに興奮したの?僕たちがやってるの見て」
藤の頭は真っ白だった。
(バレてたのか?何時から、……いや、それより、何で今更)
回らない頭で今の状況を分析しようとしたが、ハデスの一言によって、その思考は遮断された。
「バレてないと思ったのかな。あぁ、もちろんアシタバくんは気づいてなかったよ?」
くすくすと、悪戯が成功した子供のように、無邪気な笑顔。(はたから見れば、十分怖い笑顔だが)無邪気に笑うその顔は、それでも藤をゾっとさせた。

「なん、で、てめぇ気づいて、たのに」
やめなかったんだ、と続けようとした藤の言葉は、ハデスの発言によって阻まれた。
「見せつけてあげようと、思って。藤くん、アシタバくんを好きだろう?」
「……!」
目を見開いた藤に、ハデスは再び二コリと笑い、無言で腕を掴むと、
「ちょ、てめ……っ!何処に、」
「黙ってついてきてね」
有無を言わせず、藤をひっぱって行った。
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