左カズ

□★泊まりにおいでよ
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『今度の土日、泊まりにおいで。』


あんまりさり気なく言うもんだかから、俺も思わず『うん』とか言ってて。
だけど、これって……初めてのお泊まりなんじゃ?



** 泊まりにおいでよ **




「やべぇ。なんか、緊張してきた。」

『うん』と返事した手前、今更断る事も出来なくて、何となく来てしまった。
とかいって、新品の下着を用意している辺り、俺も期待してんのかな?

チャリっと、手の中ですっかり温まってしまった鍵を鍵穴に差し込む。マンションに来るのならって、左さんに渡されたものだ。
何度も来ている部屋のはずなのに、渡された鍵を使って入るというだけで、何だかくすぐったい。

「え、えーと。お邪魔シマス。」
「いらっしゃい。カズ君。」

廊下の先で左さんが待っていた。ドアを開ける気配に気付いてやって来たのかもしれない。

「お腹は空いてないかい?ピザを頼んでおいたんだけど。」
「ん。食べる。」

それから、ピザを食べながら、ATのDVD見て、映画も何本か見て、風呂入って……。

なんか、いつもと変わらなくね?
そりゃ、いきなり攻めてこられても困っけど、こんなもんなんだろうか?


やがて、夜も更けて、左さんが読みかけていた本を閉じた。

「そろそろ、遅いし…。寝ようか?」


−い、いよいよなのか!?


寝室に案内されて、思えば部屋に遊びには来ても、ここには入った事はなかったなと思う。

一人で眠るには大き過ぎる程のベッド。
シックな色合いで統一された寝具。

「どっち側がいい?」
「え、あっ、じゃあ左側。」
「じゃあ、僕は右で眠るから。おやすみ。」
「おやすみ。」

ベッドサイドの電気も消され、室内は黒に塗り潰された。
ドキドキと煩いくらいに心臓が鳴っている。あんまり忙しなくって、壊れちまうんじゃないか?


−−けど…

大き過ぎる程のベッドの右と左。真ん中にはぽっかりと隙間が空いている。
左さんの動く気配もなかった。


恋人が初めて泊まりに来て、同じベッドに眠ってんのに、手を出さないなんてあんのか?
普段、ベタベタ触ってくるくせして。そういやぁ、今日はほとんど触られてない。
ヤる事ばっか考えてるわけじゃねぇし、なんかすっげぇ痛いって聞いてるし…。


けどさ……


左さんに背を向けていた体勢を反転させて、ぽっかり空いた透き間を埋める様ににじり寄った。

「左さん。寝ちゃった?」

答えは返ってこない。
俺は、その背に額を押し付け、パジャマをギュッと掴んだ。


怖くないって言ったら、それは嘘だ。

どうされるのか、自分がどうなるのか、
考えたら、ビビって逃げ出したいくらいだけど…

アンタから貰う愛に応えてやりたいって思うんだよ。



だって、やっぱり好きだから。



「覚悟決めて来たんだけどなぁ…。」

ぽつと呟いたら、何だか泣きそうになった。
すると、突然に目の前の背中が大きく動いた。

「え?あ、な、なに?」

寝ているとばかり思っていた俺は、気が付くと左さんに抱き締められていた。

「全く、貴方という人は……。」
「な、なんで?寝てたんじゃ…。」
「貴方がこんなに近くにいて眠れると思いますか?」

ギュウッと、抱き締めている腕に力を込められる。

「これでもね、僕らしくもなく我慢していたんだ。初めて泊まりに来て早々に襲って、嫌われでもしたらどうしようかと。
だけど、こんな風にされてしまったら、もう僕の理性は持たないよ。」
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