スピカズ連載…Let's live together!

□・ep7:夏の終わりの幻夢
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Ep7:夏の終わりの幻夢

「あー。あと十日で宿題終わるとは思えねぇ」

自室だとサボりたくなるらしく、カズくんはリビングに夏休みの宿題を広げていた。
絵や作文といったものは終わっているらしいが、問題集がほとんど真っ白だという。

「夏はどうしてもATの大会やイベントが多いからね」

カズくん自体が参加したいというのもあるだろうが、炎の王というだけで、その手の大会やイベントに呼ばれる事は多い。

「もう頭から煙でそー」

そう言って、カズくんはその場に両手を広げて寝っ転がった。

「少し休憩でもする? 飲み物でもいれようか?」

台所から声を掛けると、「コーラ!」という声が聞こえた。僕は、グラスにたっぷりの氷を入れてコーラを注ぎ渡す。自分にはアイスコーヒーを入れた。
手渡しながら、ふと、有る事を思いついた。

「あのさ。カズくん。僕、これから遅めの夏休みを取る予定なんだけど……。その宿題がそれまでに終わるなら、一緒に旅行にでも行かないかい?」
「え? でも、悪くねぇ? ゆっくり羽根伸ばしたいのに、俺ついてって。タダでさえ、こうやって一緒に住んでるわけだし……」

カズくんの瞳が戸惑うように揺れた。
僕は、カズくんが好きだからーーー例え、休みの日だって一緒にいたいと思うけれど。さすがに、そんな本心は言えない。

「実は、行きたいと思ってる場所があるんだ。カズくんは知ってるかな? トレイルA・T」

僕の言葉に、カズくんが興味深そうな視線を送ってきた。

「トレイルA・Tって?」
「簡単に言うとね。トレイルランニングっていう大自然の中を駆けるランニングがあるんだけど、それをA・Tでやろうっていうのが、このトレイルA・Tなんだ。普段、街中や施設内とかでやる機会が多いだろう? 大自然の整備されていない道や大自然を肌で感じながら走ろうというのが、このトレイルA・Tなんだ」
「大自然の中かぁ……。整備されてない道ってのも、何か面白そうかも」

カズくんの瞳がキラキラと輝き始めた。A・Tの事だけに、興味を引かれた様だ。あと一押しとばかりに、僕は言葉を重ねる。

「美しい景色や美味しい空気は味わえるし、何よりも筋力アップにも繋がるしね」
「行く! 俺も一緒に行く! 旅費出すから、俺も連れてってくれよ」

カズくんは盛大に立ち上がり、選手宣誓するかのように右手を掲げて叫んだ。

「もちろん、一緒に行こう。ただし、それまでに宿題終わらせるんだよ?」
「おう! 俄然、やる気出てきた!」

さっきのグダグダしていた態度が嘘のように、カズくんは宿題に向き合うと、驚くほどの集中力を発揮し始めた。
生来、カズくんはやる気にさえなればやり遂げるだけの実力はあるのだ。それは、受験勉強を手伝った時に実感していた。
ニンジンを目の前にぶら下げる様で悪いけれど、やっぱり僕は、君と一緒に行ってみたかったんだ。
日常とは別の空間で、新たな思い出を君と刻みたいからーーー。
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