少しずつ、少しずつ。
大人になったらいいよね。





「くそっ!!」



「そんな簡単に跡部先輩に勝てるわけないでしょ」
「…付いてくんな」


ラケットを乱暴にベンチに置いて座ると、拳を強く膝に打ち付けた。
振動で髪から汗がしたたり落ちている。


「ちっ…!」
「悔しかったら練習すればいいじゃない」
「…」
「先輩にアドバイスもらったりさ」
「…そんなふざけた真似できないだろ」
「じゃぁいつまでたっても勝てないね」


私が鼻で笑うと、日吉が立ち上がって首にかけていたタオルを投げた。
日吉は私に一歩、近づく。


「お前に何かを言われる筋合いは…」
「ない?ほんとかな?」


言葉を詰まらせた日吉は、挑発的な目をしている。
でも、私だって負けない。
日吉の鼻先に、人差し指を当てた。


「なぐさめてあげよっか」


わざと上目遣いになる角度まで近づくと、日吉が一歩、後ろに退いた。
目線は外さないものの、完全に受け身だ。


「ほらね」
「…なんだよ」
「日吉はまだまだ勝てないんだよ」
「…!」


鼻と鼻がかすって、体が離れた。
日吉は私に間違いなくひるんだくせに、動揺を隠すために落ちたタオルを拾った。


大人になるにはまだ早いかもね。





(1/2)


ありがとうございます。



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ