少しずつ、少しずつ。
大人になったらいいよね。
「くそっ!!」
「そんな簡単に跡部先輩に勝てるわけないでしょ」
「…付いてくんな」
ラケットを乱暴にベンチに置いて座ると、拳を強く膝に打ち付けた。
振動で髪から汗がしたたり落ちている。
「ちっ…!」
「悔しかったら練習すればいいじゃない」
「…」
「先輩にアドバイスもらったりさ」
「…そんなふざけた真似できないだろ」
「じゃぁいつまでたっても勝てないね」
私が鼻で笑うと、日吉が立ち上がって首にかけていたタオルを投げた。
日吉は私に一歩、近づく。
「お前に何かを言われる筋合いは…」
「ない?ほんとかな?」
言葉を詰まらせた日吉は、挑発的な目をしている。
でも、私だって負けない。
日吉の鼻先に、人差し指を当てた。
「なぐさめてあげよっか」
わざと上目遣いになる角度まで近づくと、日吉が一歩、後ろに退いた。
目線は外さないものの、完全に受け身だ。
「ほらね」
「…なんだよ」
「日吉はまだまだ勝てないんだよ」
「…!」
鼻と鼻がかすって、体が離れた。
日吉は私に間違いなくひるんだくせに、動揺を隠すために落ちたタオルを拾った。
大人になるにはまだ早いかもね。
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