10/23の日記

16:09
ぬら孫 夜若×雪女
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ここ数日、リクオ様の様子が変だ。

登校、下校時には時折足元がふらついているし、話している最中もぼんやりとしていてどこを見ているのかいまいち分からない時がある。
それに、よく咳き込んでもいるような気がする。

夜分遅くにそう報告しあっていた首無しと雪女は自然と互いに目を合わせ、こくんと頷く。
こうして二人の妖怪は何らかの意思を伝えあったのであった。



ちゅんちゅんと雀の鳴く声がする。
それで目覚めた意識に沿って、リクオはぼんやりと眼を開く。するとその視界に入ったのは自身の側近である少女の姿。
ここまでは、いつもと同じ朝の光景だった。


「リクオ様、もう朝ですよー」
「……う、ああ、雪女か。おはよう」
「はい、おはようございます!そして単刀直入にいきますけれど…」
「え、なに…?」
「現在私の手元にありますこれは体温計でございます」
「……うん」
「さあ、奴良組一家恒例の検温のお時間ですよー」
「恒例って…うちには今までそんなシステム動員されたことなんてありません!」
「…はて、そうでしたっけ?」
「そうだよっ!もう、朝は時間に余裕がないんだからふざけてないで―…「隙ありー!ですよリクオ様!」

その言葉と同時に不意打ちでぺた、と額にあてられた、文字通り氷のように冷たいてのひら。
その瞬間、じゅっと何かが焼けたような嫌な音がしたのはきっと、気のせいではない。


「……っつー!!!」
「つ…つらら!?」
「…ここここれはっ、か、確実にっ!お熱があります!!」


痛みのせいで端整な顔を歪めながら、かつ目もあてられないほどにどもりながらもそう叫ぶ側近に「だから今日は絶っ対に学校をお休みしてもらいますからね!」と言われてしまってはどうしようもない。

…普通の人にとって熱を出した人間の額とは少し温かく感じる程度だが、雪女という妖怪種族からしてみればそれは熱く焼けた鉄板のようなものである。
しかもそれに自ら手を伸ばすとは何たる自己犠牲。普段なら何があってでも学校へ登校するリクオなのだが、部下のこういった所業に対してはすこぶる弱かった。

だからこそ現在こうして大人しく布団の中におさまっている。


「…流石のリクオ様も雪女の献身的な様子を見て心を入れ替えてくださったようで何よりでございます」
「……まさかお前が雪女にけしかけたんじゃないだろうな、首無し」
「はて、何のことやら」

リクオの枕元に冷えた水が入った桶を置き、その中に浸していた布を丁寧にしぼりながらもいけしゃあしゃあと答えた部下の表情はいつもと同じで一体何を考えているのか分からない。相も変わらず喰えないやつだと思わずリクオは舌打ちしたい思いに駆られた。


「…で、雪女の具合はどうなんだ?」
「たいしたことはありませんよ、てのひらに軽い火傷を負ったくらいです。それよりも彼女を心配する余裕があるのならば御身の養生を心掛けていただきたい」

でないと彼女自身も報われないですよ、とリクオの額にまだ水気の残っているおしぼりを乗せ、首無しは苦笑する。


「……とりあえず今はお眠りになってください。人にとって睡眠ほど効率的な回復方法はないんですから」


そう言われたかと思えば男にしては細く白い指先に眼を閉じるよう優しく促され、リクオは大人しくそれに従った。
すると瞼を覆うひんやりとした心地好い感覚。
雪女ほどではないが、それでも冷たい彼の体温は現在熱を帯びたリクオの身体にとって安らぎを覚えるのには十分であった。

…もしかして妖怪は基本皆、平均体温が低いのだろうか。
彼等のことは全て把握しているつもりだったけれど、まだまだ自分でも知らないことが多いらしい。
そうだ。今度気が向いたら鴉天狗に色々と聞いてみようか。
ほとんど飛びかけの意識でそんなことをつらつらと考えながら、リクオは静かに眠りについた。



虫の鳴き声が何十にも重なった美しい音色に促されるように、リクオは二度目の覚醒を迎えた。
…ただし現在の彼は昼間のような赤毛ではなく、月を模倣したかのような白銀の髪に染まっていたのだが。
そして首無しの看病の仕方が良かったおかげで熱も下がったのか、昼の間は嫌なほど感じていた身体の気怠さも綺麗さっぱりとなくなっていた。


「……リクオ様?」

すると遠慮がちに傍らから声が聞こえた。
リクオはそれに応えるかのようにそちらを流し見る。
そこには想像していた通りの人物がちょこんと礼儀正しく正座して控えていた。


「つららか…」
「はっ…はい!」
「傷は?」
「全然平気ですっ!ご心配をかけるような真似をして申し訳ありません…」
「いいや、昼のオレは頑固だからな。それくらいで丁度いいんだろうさ」

そう言ってリクオは雪女の膝に置かれた右手に包帯が巻かれているのを見遣る。


「……まあ、自分の手下にここまでさせなきゃならんところを見ると…若頭としては風上にも置けないが、な」
「でも…そんなところも私はリクオ様の魅力の一つだと思います」
「…ほう?」
「だって私達はそんな頑固で、でもとても部下想いなリクオ様が大好きなんですもの!」
「……そりゃ、どうも」

側近からあまりにも率直に"大好き宣言"をされたリクオは少し照れ臭そうにほくそ笑んだ。
それにつられて雪女も思わず頬を赤くする。


「…でも」
「……っはい!」
「あんまり無茶はするなよ。昼のオレが悲しむ」

…それに、オレも自分のもんが傷物になるのは見たくねえしな。


そう言い雪女の傷付いた右手を取ったかと思えば、リクオはまるで癒すかの如く彼女のてのひらに口づけた。


因みに……自身の主から不意打ちでその行為を受け、尚且つそう囁かれた雪女は、普段の顔色の悪さを微塵も感じさせないほどに真っ赤だったそうだ。



( 恥ずかしいくらいベタなラブソングを君に )



end

まるまちゃんからのリクエストです。

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