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□壊れたマリオネット
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月の王が人間の手によって崩御した。

この出来事は後の使徒二十七祖の形成に大きく関わることになる。




壊れたマリオネット




「あなたは、残酷だ」

さらさらと柔らかな風にたなびく髪。
普段は黒髪として見られがちだがこうして明るい所で見るとそれは黒色ではなく深い菫色なのだということが発覚する。
その髪は月光を受け、彼の存在をより幻想的なものに見せた。


そんな彼の足元には、形だけとして立てられた豪奢な墓碑が一つ。


「俺の未来を修復出来ないほど目茶苦茶にしておいて、先に逝くなど・・・!」

憎んでいた主を喪った憐れな僕は端整な顔を苦虫を潰したように歪め、怨嗟の言葉を吐き出す。
そうでもしなければ胸の内に蓄積されたこの感情が爆発してしまいそうだった。
この身をヒトからバケモノへと変えた張本人が先に黄泉へ逝くなど、なんと妬ましい事か。
だって彼は不死故に死ねない。例え本人がどんなに死という名の介抱を願おうと、それは叶わないのだ。

何故先に逝った。どうして最期にこの呪縛を解いてくれなかったのだ。


「きっと、貴方にしか俺を殺すことは出来なかっただろうに、」

あと、何百年生き続ければいい?
あと何百年、この苦痛を味わって生きていけばいいのだろうか?


「・・・・・っ」

ぎり、と痛みを紛らわすように歯を噛み締めた。
口内を潤すは自分達吸血鬼が主食とする血液。
どうやら強く噛み締めすぎて歯茎が出血したようだ。
だがこんな軽い痛み等何とも感じない。
それに、どうせ刻に呪われた身だ。このような傷は一瞬で修復してしまうだろう。


「・・・・自害はおろか、殺してもらうことも出来ぬ身とはな」

滑稽だ。実に、滑稽だ。
ここまでつまらない道化が他にいるはずがない。
これではヒトを笑わせる所か失笑を買うぞ?我が王よ。

朱い月はどうやら役者を誤ったようだ。
否――寧ろ天邪鬼な彼の事だから敢えてそれを狙ったのだろうか。
だとしたらなんとも悪趣味なことか!


男は一人で苦笑する。
すると口唇を歪めた瞬間、その薄い唇からはまだみずみずしい赤い液体が艶やかに顎へと伝った。



(だったら最後までこの喜劇を演じようではないか。この身が刻に見放され、朽ち果てるまで)




end









それでも、心のどこかでは貴方を憎んではいなかったのかもしれない。
出来ることなら貴方が最期だけは心から微笑むことが出来たのだと、そう思いたいから。




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