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□赤薔薇の女王
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白いキャンパスに描かれた少女の幻想。

折り合わさって死んでいた13人の少年達。

死んでゆく夜と、生まれてくる朝。繰り返し続ける物語。
そしてそれらの中に隠された、一つの終焉がある。

闇が満ちた暗い暗い屋根裏の檻。
その狭い檻の中の空間を延々と、彼女の高らかな笑い声だけが支配していた。


「私、冬薔薇が欲しいわ」

彼女が紡ぐ艶やかな言葉。自らの唇に赤い舌を這わせ、にこりと微笑する妖艶なその姿は獲物を見つけた肉食獣の姿をどこか彷彿とさせる不気味さがあった。


「真っ白で、穢れなんて知らないあの子がほしいのよ」
「・・・」
「うふふ、生まれる前に死んでいくだなんてかわいそうなイヴェール。ああなんてかわいいのかしらわたしのかわいいかわいい、子供」
「・・・・・・・・」
「・・・あら賢者、どうしてなにも言ってくれないの?」

いつもの饒舌なお口はどこに行ってしまったのかしら、とからかうように言われたその言葉にも賢者と呼ばれた男は何も返答しない。
その様子に対しあまり気にした風でもなくつれないわね、と殺戮の女王<レーヌ・ミシェル>は軽く鼻で笑った。


「それとも何?貴方はイヴェールを私に盗られたくないとでも言うの?」

その言葉に観念したかのように賢者は一度大きく溜め息をつき、ようやく重い口を開き、別に、そういったやましい理由ではないのだがね、とだけ言った。
女王はそれを見て満足そうに口唇を吊り上げる。その表情は大人の姿に反してまるで悪戯が成功した子供のようだ、と賢者は頭の隅で思う。
しかしその思考を即座に追い払い、賢者はどこから出したのか右手に一輪の薔薇を持つと、かいがいしく女王へと差し出した。
その薔薇の色は…血濡れたような鮮やかな、真紅で。


「私の見立てが正しければ貴女には冬薔薇よりもこちらの薔薇のほうがよほどお似合いですよ?マダム」


女王は賢者の言葉を聞くと一変し、不愉快そうに整った眉を潜める。
そしてそれを見た賢者はしてやったりと言わんばかりににやりと口唇を上げた。そう、まるで先程の仕返しであるかのように。

嫌味たらしいその行為に殺戮の女王は苦々しく嘘吐きな男、と呟く。
そんなにイヴェールが大切ならば渡したくないのだと素直に言えばいいものを。

しかしその言葉は口に出しては言わずにそっと自身の胸の内だけに留め、檻の中の女王は目の前に差し出された赤い薔薇を引ったくるように奪うと闇に包まれた地面へ苛立たしげに叩きつけ、高いヒールの靴で無惨にも踏み潰した。


(あの子以外の美しいものはすべて、おりあわせしになさいな!)



. . . 赤薔薇の女王




end

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