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□望んだのは、貴方の笑顔
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美しい音を奏でていたたおやかな青年の手は今、打って変わってごつごつとした武人の手へとなってしまった。
大分前から剣を握るようになったこの手の掌には豆の潰れた跡がいくつも出来上がっていて、その痛みを無視し剣を降り続けたせいか必然的に皮は厚くなっていき、今では豆が出来、潰れたとしても痛みは全く感じない。
それでも後悔の念は全くといっていいほどなく、むしろオルフはこの手が誇らしいとすら思えた。


(・・・また、この手であのお方を守れた)


紫水晶の瞳を持っている敬愛して止まない我等が将軍閣下の道を阻む邪魔者を葬ることができた。
ほんの少しだけれど、あのお方の手助けになることができた。
・・・そう、心からお慕いしているアメティスト将軍閣下の部下として、剣として私は役目を果たしたのだ。

嬉しい。嬉しい。ああなんと誇らしいことか!
そう、私は嬉しいのですよ、閣下。
だからそんな顔を、なさらないでください。
そんな、悲しげな顔をなさらないで。


「・・・・・オルフ」


愛しい愛しい、貴方のお声。
名を呼ばれるだけで、異様なほどの高揚感が胸を満たす。


「オルフ、」

深い色を帯びた美しい紫水晶の瞳。
それはとても悲しげで。見ているこちらまで感化されて悲しくなってしまった。


「オルフ、すまない」
「・・・・閣下?」
「お前は本当ならばこちら側の人間ではなかったのにな、」
「閣下、そんなことをおっしゃらないでください!私は、」
「オルフ」


閣下の強い声によって途中で遮られる言葉。
それがまるで私に対する拒絶のように感じてしまい、思わず縋るような目で閣下を見つめた。

何故、何故なのですか。将軍閣下。
私は貴方の為ならばなんだってします。貴方の為ならこの生命すら投げ捨てても構いません。
貴方を守るためならこの身を棄てることだって、厭わないというのに、


「すまない、オルフ」


悲しそうな、寂しそうな、その表情。
ああ、違うのです。私は貴方にそんな顔をさせたいわけじゃない。


「すまない、」

巻き込んだのは私なのに、それでも、私は・・・・と自身を嘲りながら小さくそう呟く、私の愛しい人。



「私は、お前の紡ぐ竪琴の音色が、好きだったよ」


それに続けてすまないと掠れた声で言ったその謝罪は、一体誰に向けてのものだったのだろうか。




望んだのは、貴方の笑顔



(私はただ、貴方の純粋な笑顔が見たかっただけなのに、)



end

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