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□君を唯、想う
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温かな日だった。
空には雲一つない、それは正しく快晴といえる天気であった。
時折吹く風は涼しくて、高く括った髪をゆらゆらと揺らしている。
それは実に過ごしやすい気候であり、そんな心地よい環境に少女は無意識でうとうとと船をこぐ。

すうっと瞼を閉じると視界がなくなったことにより背中に感じる彼の温もりがより強く感じられた。
それが嬉しくて思わず少女はふふ、と幸せそうに小さな笑みをこぼす。
そしてその微かな振動で彼にも少女が笑っていることが伝わったらしく、背中合わせの状態で首だけを少女の方に向け、訝しげな表情をした。


「・・・ライラ、ドウシタ?」
「えへへ、シャイターンがすごく温かくてね、少し嬉しくなっちゃったの」
「ソウカ・・・我モライラガ嬉シイナラ、嬉シイ」
「そっか、じゃあ私達二人ともとっても幸せなのね」

そう言って、少女は本当に嬉しそうにはにかんだ。
それに対して少女と契約を交わした悪魔も、ぎこちなくだが確かな笑みを愛しの少女に返した。

そしてそんな二人を祝福するかの如く、ざわざわと優しく頭上の木々達が揺れる。
同じようにさわさわと吹く心地よい風も、どこまでも優しく感じられた。


そんな緑の多い森の中。
悪魔と契約を交わし人であることを捨てた一人の少女と、少女によって長き封印を解かれ、少女と契約を交わした悪魔は温かな日差しを受けながら日影で背中合わせに座り、休息を取る。

しかし本来悪魔であるシャイターンは勿論のこと、今ではもう彼の眷属となったライラは休息など必要としない。
それでも悪魔が時折このような穏やかな場所へと少女を連れて来て、彼女を休ませるのは単に彼が少女をとても思いやってやっていることにすぎない。
そして少女にもそれが分かっていたので悪魔のその気遣いは毎回、有り難く受け取るようにしていた。


「シャイターン」
「・・・・・ナンダ?」
「いつも、ありがとうね」
「・・・・・・・・」

今更だが礼をすると困ったようにシャイターンは笑った。
でも少女にはそれが単に彼の照れ隠しだということが分かっていた。だからくす、と再度小さく笑みをこぼす。


とても、幸福だった。
・・・嗚呼、出来ることならいつかこの世から戦争なんてものが消えて、ずっとこんな穏やかな日々が続きますように。

少女は黒と赤の混じったツインテールを相変わらずゆらゆらと風に靡かせながら、そんな遠い日へと思いを馳せた。



(そんな私の我が儘を本気で叶えようとしてくれているあなたはなんて、優しい悪魔なんだろう)




君を唯、想う



end

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