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□血濡れた花嫁
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胸を貫く鉄の塊。
熱い、熱い。貫かれた箇所が、酷く熱い。
それでも何故だか不思議と痛みは感じなかった。

ただ最期に聞こえた男の声に聞き覚えがあったのに、それをどこで聞いたのかを考える思考すらも段々と薄れていって。
私はもう死ぬのだと、諦めにも似た思いで瞳を閉じた。


(ごめんね、エレフ)


ずっと一緒にいようねと言った幼き頃の約束、一生守れそうにないわ。
生きていたらまた出会えたかもしれないのに、それすらも叶えられないみたい。

運命って意地悪ね。
ほんの些細な願いでさえも奪っていくんですもの。
私達の願いはそんな大それたものではなかったのに。
私達はただ、ずっと一緒にいたいと願っただけなのに、





. 血濡れた花嫁






人は死ぬと冥府へと降る。
その伝承は真実(ほんとう)なのだとアルテミシアは身を以て知った。
それは良い意味でも。そして悪い意味でも、だ。


「何ヲ見ティル?我ガ眷属ノ花嫁ヨ」
「・・・・・エレフを、見ているの」
「・・・アルテミシア、心配シナクテモイイ。器モィズレココヘト堕ツル運命ナノダカラ」
「そう、やっぱり意地悪なのね。運命も・・・・・貴方も」

そんな自身の花嫁の言葉にこの冥府を統べる王は死を抱く紫-シ-の瞳を不思議そうにぱちぱちと瞬きさせた。
まるで意味が分からないとでもいうように。
そしてそれを見てアルテミシアはくすくすと小さく笑う。
それは嘲笑のようにも、また自嘲のような笑みにも見えた。


「意地悪?我ガ?」
「ええ、とっても意地悪だわ。貴方も含めて神様は全員ね」


眼下にある下界を映す湖に現在映っているのはアルテミシアの半身である愛しい愛しい兄の姿。
だが彼は現在その手に復讐を表す黒き双剣を持ち、妹を殺した世界へと呪詛を吐き続けている。


(ほら、やっぱり神様達はみんながみんな、意地悪じゃないの)


血濡れた花嫁はもう一度そう言って、嗤った。
それは全てを悟り、織っているような笑顔だった。



end









貴方達が私達二人に微笑んでくれたことなんて一度もなかったわ
貴方もそう思うでしょう?旦那様



殺めることで救い続けるだなんて、貴方が見出だした貴方自身の救いでしかないのよ

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