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□エデンの果実
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深い深い井戸の底。そこは理不尽にも殺されてしまった美しい屍人姫達の集う聖域。
そしてそこには偶然にも全く異なる国で生を受けた二人の麗しい姫君がいたのであった。

「あたしね、ここに来て良かった・・・だなんて思い始めているの」

「・・・偶然ね、実は・・・私もそうなの」

「ふふっ、それがどうしてなのか聞いてもいいかしら、野薔薇?」

「え、そんな・・・恥ずかしいわ、白雪」

黒髪の少女の無邪気な問いに対し金髪の少女は白磁の肌をその身に纏ったドレスローブと同じような桃色に染めた。
それを見た黒髪の少女は「もう、野薔薇可愛い!」と感極まったように叫びながら金髪の少女に抱きつく。

「あの馬鹿王子が貴女のことを手放してくれてよかったわ。だってそうじゃなきゃこうして貴女と出会えていなかったもの」

「それは私にも言えることだわ。彼があのまま貴女の元に居たら私は一生夢の中で・・・貴女という存在を知らずに眠っていたでしょうから」

「ふふっ、それを言うならあの男が居なかった場合私は死んだままよ!」

「ふふふ・・・そういえばそうだったわね」

そう言って可笑しそうに口元に手を添え笑う野薔薇の姫君の薄桃色の唇を見、冬に愛された白雪の姫君は今気づいた、とでもいうようにぽつりとこうこぼした。
「でも、そのせいで貴女のファーストキスはあの男に奪われてしまったのよね」と。

「・・・・・・白雪?」

きょとん、と野薔薇姫は首を傾げる。
先程まで楽しく談笑していたというのに、突然不機嫌になってしまった彼女を少女は不安げな眼差しで見つめた。
今、目の前に居るこの少女に嫌われてしまうことが野薔薇姫にとって最も怖いことであった。

「・・・野薔薇、ちゅうしよ!」

「し、白雪!?・・・どうしたの?突然」

「あたしが野薔薇の唇を綺麗にしてあげる。その代わり野薔薇にはあたしのファーストキスをあげる。ね、中々フェアな取引だと思わない?」

「・・・・」

ああ、そういえば自分は彼の口付けによって百年もの眠りから目覚めたのだったか。
そんな事実を野薔薇姫は今更のことのように思い出した。その上キス以上のことも夫婦となってからはしてしまったのだが、とも内心思った。
勿論面倒なことになるのは分かりきっているため、口に出しては言わないが。

「ああ・・・でも確か貴女はあの男と肉体関係も持っていたんだっけ」

「・・・白雪、どうしてそれを」

「あの気味が悪いお人形から聞いたのよ。貴女が呪いによって産み落とした子供を森に捨てたことも知っているわ」

「・・・・・」

おぎゃあ、おぎゃあ。
白雪姫の言葉によって泣きじゃくる赤子の泣き声が脳裏にフラッシュバックした。とっくの昔に忘れてしまったと思い込んでいた、少女の中で一番と云っていい位に深い悲しみの記憶。
誰だって産んだ子供に対して愛着は沸く。当然、それは野薔薇姫にも言えることであった。
少女は王子を愛していなかったけれど、娘のことは愛していた。
自分譲りの美貌と赤い瞳を持った可愛い女の子。逆に言えば、そんな子供が可愛くないはずがない。

「泣いてしまったの、野薔薇?」

突然両手で顔を覆ってしまった少女に対し、白雪姫は穏やかにそう問うた。
その声色は不自然すぎるほど透き通った響きを帯びている。

「ああ、綺麗。貴女の涙」

「・・・・・ッ」

「ねえ、もっとその美しい顔を見せて頂戴?」

白雪姫は陶酔したような笑顔をその愛らしい貌に浮かべながら、そのたおやかな両腕を野薔薇姫の方へと伸ばした。そしてその手を野薔薇姫の顎にかけ、顔を上げるよう促す。
すると想像に反して野薔薇姫はその要望に大人しく従った。
何故なら今の少女にとって白雪姫こそが唯一の存在だったから。
彼女に嫌われてしまったら少女はどうすればよいのかまったく見当もつかなかった。

「ふふっ貴女の瞳、涙に濡れていてとっても綺麗」

無邪気に笑いながら白雪姫は野薔薇姫の頬に伝う涙を舐め取った。

「ね、野薔薇、ちゅうしよ?」

そして思い出したかのように再度そう問いかけてくる。
野薔薇は泣きはらした目を軽く擦ると、こくんと小さく頷いた。


「・・・ん、」

それはまるで小鳥が餌を啄ばむかのような、あまりにも拙い口付けであった。
しかし同時にそれは野薔薇姫にとって何物にも変えられないくらいの満足感をもたらした。

「・・・白雪、もっと、」

「ん・・・」

「悲しいことなんて全部忘れてしまうくらい、いっぱいキスして欲しいの」

「野薔薇・・・」

「私の中を貴女でいっぱいにして、白雪?」

「うん、あたしのことだけしか考えられないようにしてあげる。あたしのことだけを愛するように・・・」

そう言って再度野薔薇姫の唇に触れるだけの口付けを施す。
まるで少女に何かの暗示をかけるかのように。

愛してるわ。
甘い吐息を漏らしながらそう言ったのは果たしてどちらの方だったのか。

二人が二人とも甘い果実に夢中となった今、それはもう分からない。



 ( エデンの果実 )










童話の初投稿の作品が白雪と野薔薇とかwww
マニアックすぐるwwwww

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