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□ボコ愛 05:口の端が切れた
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はじめまして。ぼくはどこにでもいるような貧しい子供です。
そんなぼくは、毎日生きる為に花を売って稼いでいます。
それでも最近では国が傾いているせいで元から少ないであろう、花を買ってくれる人が更に減りました。
父はそんなぼくを役立たずだと罵って最近では毎日のように暴力を振るいます。
正直、殴られるのは嫌いです。父はぼくのことを少しの手加減もなしに殴り、蹴るので殊更嫌いです。
ぼこぼこに殴られたぼくの顔はとても醜く、とてもじゃありませんが見れたものではありません。
だから花を買ってくれる人もこの顔を気味悪がるので、売り上げは更に減りました。
そして父はまた、そんなぼくを口汚く罵り、殴りつけるのです。
そしてそんな日がいくつか続いたある時、父は言いました。


「花だけではもう生きていけん。今日からお前は身売りをしろ」


その言葉の意味を理解できる程度には、僕も既に成長していました。










貧しい少年を買う者達は皆、こぞってそれを手酷く扱うのが好きなようだった。
なのでただでさえ実の父親の手によって醜く腫れ上がった彼の顔は更に腫れ、ぼこぼことしたいびつな姿になってしまっている。
しかし不幸中の幸いというべきだろうか。それに対する痛みは神経が麻痺しているのかどうかなのかは分からないが、とうの昔に感じなくなっていた。そして両腕も彼が気付いた時にはもう、なくなってしまっていた。
それでも足だけは歩くために必要だからと言って、小汚い金ばかりを貯蔵する男達は彼の両足を残していた。きっと切り取った両腕は闇市か何かで売り払うつもりなのだろう。
しかしそんなことも分からない無知な少年は、嬉しそうにありがとうございますと恨むべき相手に対し涙を流しながら礼を言うのだ。

そんな日がまたいくつか続いたある晩、少年はいつものように自分を買ってくれる客を探していた。
大抵は路頭を一人で歩いていれば、金を大量に持っていそうな男のほうから声をかけてくれるからだ。
しかしその日はいつもと違っていた。
いつもなら夜になっても人が賑わうその場所には人っ子一人おらず、何故か路上には薄く霧がかかり、ぼんやりと街灯の灯りが霞みがかって見えた。


「…おや珍しい、普通人は入ってこれないはずなんですけど」


そんな時、決して大声ではないけれど、それでもはっきりとこの場に響く男の声が少年の耳に届いた。
その後突然、彼の目の前に人の輪郭がぼんやりと浮かび上がる。
そして何処からともなく吹いた風にたなびく漆黒のマントが視界に映る。
するとどうしたことだろうか。いつの間にか眼前には一人の青年が立っていた

まるで一本一本が光でできているかのような明るい金色の髪。
日に焼けることを知らないかのような白皙の美貌。
そして、血濡れたように赤い瞳。

少年は息をすることも忘れ、食い入るように彼の人を見つめた。
だって、知らなかったのだ。この世界にこんなにも美しい人が存在しているだなんて、夢にも思わなかったのだ。


「……貴方、もしや…」

すると目の前に突然現れたその人もまた、赤い瞳を瞬かせて少年をじっと見つめる。
それに対し少年は羞恥心に駆られてびくりと肩を震わせ、彼から目を離す。痣だらけのこの顔をこの時ほど呪ったことはないだろう。
しかし頬に温かな何かが触れるのを感じ、それが何なのか理解した瞬間、少年は勢いよく彼と目を合わせてしまった。
再び相俟みた赤い瞳は何故か悲しい色をしている。
すると彼の温かな指先が労るように腫れ上がった頬を再度撫でた。


「……貴方はここで客寄せをしている男娼ですか?」
「は、はい」
「では今晩私が貴方を買っても支障はありませんね?」


…………え?

今、彼は、何と言った?


「…私は、貴方を買うと言ったのです」

少年の表情を見て何かを感じ取ったのか、青年はもう一度、どこか諭すようにそう言う。
その魔眼を用いた言葉に対し、普通の人間である少年が逆らうことなど出来るはずがなかった。
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